第2部  プラント特捜最前線  倉田事件簿シリーズ

第2話 犯人は怠慢だった。(形だけの5S)

 
村上 正志
2008年4月1日


          
調査員 釜石
調査員 木下
調査室長 倉田

樹脂製品製造工場で火災が起きた。その原因は,サンダリングの火花が発泡樹脂に燃え移ったことであると発表された。本来,そこには無いはずの発泡樹脂がその時そこにあった訳だ。製造現場での5Sのルールを違反したことで,人が行った,もしくはやるべきことをしなかったことによる火災である。
5Sは,整理,整頓,清掃,清潔,躾とあるが,製造中だけの5Sでは,意味が無い。現場で作業する業者にも徹底が必要である。



釜石 「損害は300億円ぐらいと言われているのですが,何しろ,工場の生産ラインと倉庫が全焼ですから。」

木下 「消火作業はしていないの?」

釜石 「樹脂に火が付くと水をかけても消えないんですよ。」

倉田 「 空気を遮断する科学消防で無いと無理だろうな。 」

釜石 「 消防への通知も10分後ですから遅かったようです。 」

木下 「自分達で消すこと考えたんだろうな。」

釜石 「 でも,小火(ボヤ)でも消防へは通知しなければならないですよね。 」

木下 「 被害を抑えると言うより,自己責任を最小限にしたいよね。 」

釜石 「 補修作業でサンダリングをかけていたそうです。その作業者の近くに発泡樹脂があってそれに引火したそうです。 」

木下 「なぜ,そこに発泡樹脂が置いてあったか。ですね。交換部品を輸送や保管用の箱から出した時にクッション材で使用していた発泡樹脂かな? 」

釜石 「その作業場所からちょっと離れていたところに樹脂製品を梱包する時に使う発泡樹脂置き場があるのですが,それが置き場の枠から出ていたものがあったそうです。」

倉田 「5Sの基本が問題だったんだな。」

木下 「5Sの基本って,整理,整頓,清掃,清潔,躾の5Sのことですか?」

倉田 「そう。その5Sの感性が欠如すると決められたエリアに運搬ケースや資材が置いてあるものの,使う為に用途別に分類して順番を考慮して,取り出しやすいように整っているのを整理・整頓というのだが,『エリア内に置けば良いだろう。』という感覚で,無造作に置いてある状態を『5Sの感性が無い』,つまり,躾ができていないということだよ。 」

木下 「躾って,親が子にする躾がありますよね。」

倉田 「そう。親は,子が大きくなっていろんな状況下で様々な課題をこなしていく,所謂,社会での生活を円満に過ごせる様に他人との生活ルールを守る感性を身に着けさせていく,躾だな。ところが,企業では企業にとって大切なことは,利益を確保して企業力を強化してさらに利益を確保して株主にも悦んでもらえる継続的活動に努める訳だが,ここで,利益を減らすムダを無くして行く必要がある。そのムダを取り除いていくのに整理整頓が必要で製品の品質や製造環境を整える清掃,清潔があり,それらの活動品質を維持し,継続していく為に躾がある。 」

木下 「つまり,その『躾』ができていなかった。『躾感性が無かった』とも言える訳ですね。」

倉田 「そうだ。しかし,これは根が深そうだね。」

木下 「根が深いと言いますと?」

倉田 「その『躾の感性』が慢性化していたのではないかという懸念だよ。慢性化するということは現場の作業者は上を見て仕事品質を上げたり下げたりする傾向がある。」

木下 「あっ。経営者も感性を無くしているのではないかということですね。」

倉田 「そう。現場を見ていない。現場を見ても『おかしい』と感じない。改善の提案が上がっても儀式で済ませている。そのうちに,改善提案も上がってこない。それを危機と感じない。」

木下 「その結果,因果応報で数百億の損害をもたらすということですね。」

釜石 「犯人は,人の心に居座る,怠慢か。」

第2部 第2話 了
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