第2部「プラント特捜最前線」

第1話「忘れられた操作端固定チェーン」

村上 正志
2008年3月1日
          
調査員 釜石
調査員 木下
調査室長 倉田

石油化学製品を精製する工場の火災は,怖い。濛々と黒煙を揚げて空を覆うだけでなく,現場は酸欠,有害ガス蔓延となる。事故はちょっとしたきっかけの重なりで発生する。

釜石 「作業者四人死亡,五人軽症ですが火傷と呼吸困難でした。設備被害は装置取替えや部品取替え,休止中の損害などを合わせますと数百億円になると思われます。」

木下 「火災原因は,高温になった燃料がバルブから出てしまって,それが発火したようです。燃料の温度は160℃以上ですから。」

倉田 「燃料の温度をバーナーに入れる前に加熱器で上げておくと燃焼効率が良いからね。」

木下 「しかし,なぜ,燃料バルブが開いたかですが,過去の作業記録を見ても,今回業者が提出の作業マニュアル項目に大きな違いは出てこなかったのですが。」

釜石 「関係者の聞き取り調査で,気になることがありまして。昔は,業者が作業する前に操作端はチェーンを巻いていたそうです。」

倉田 「チェーンを巻いていたのは,業者側か?工場側か?」

釜石 「工場側ですね。」

倉田 「そう言えば,私が昔,発電所で現場工事をする時は,電力会社の人が朝打ち合わせの時になにげなく『操作端はチェーンで固定したから,何やっても大丈夫だよ。』と言ってくれたのを思い出すなあ。前の日に作業手順を提出して,承認をもらって翌日だから,電力の人は,作業手順書を確認して,操作端をチェーンで固定しておいた方が良いと判断して,100以上の操作端の内,関係する36の操作端にチェーンを巻いてくれたのだから,徹夜作業をしてくれた訳で,今,思えばあれが事故を起こさなかったことの基本だった訳だ。今は,その人も定年退職で現場にはいないし,熟練者がいなくなった現場は,その判断部分が欠如していることが考えられる。」

木下 「とすると,操作端にチェーンが巻いていなかったことが,火災事故原因ですね。」

倉田 「とすると,操作端にチェーンが巻いていなかったことが,火災事故原因ですね。」 倉田「操作端にチェーンを巻いて動かなくすることが,外注作業の前提条件に加わっていなかったことが事件の原因とするのは,まだ,早いのではないか。 外注の作業範囲は,指示された仕事を安全にこなすことであって,その範囲は,与えられた範囲。しかし,仕事を発注側の工場側は,業者の安全責任があると考えるべきではないか。とすれば,業者が安全に作業できるように業者の責任範囲でない部分は,全て,工場側にあると考えるべきである。とすれば,操作端にチェーンを取り付けて固定する作業を指示しなかった工場側の責任と言うことになる。」

木下 「となると,工場側の指示ミスですか。」

倉田 「いや,問題は,業者が提出した作業手順書をチェックする時の判断要素が継承されていない。チェックポイントの標準化がされていなかった。ということになるかもしれないですね。」 倉田「問題は,工場側が保守点検業務におけるノウハウのデータベースを持っていなかった。持っていたとしても欠落部分があった。ということになるなあ。」



木下「ということは,2007年問題ですね。」







倉田 「・・・・どうして君は結論を型にはめたがるんだ?そんな単純な問題ではないだろうに。」

木下「・・・・解りやすくて良いと思うのですが。」







倉田 「計装の世界では常識とされるが,その常識を常識としていた生き常識の熟練者が現場にいなくなって,プラントの安全は常識のホールができていると見た方が良い。 例えば,制御装置から操作端へ渡している信号は,全て4〜20mA/0〜100%開度だと思い込んでいる人がいる。実際は,二系統の給水菅があったとして,二系統のアクチュエータから伸びるドライブのアームとバルブの位置関係で現場の設置位置で右左逆についていたとする。その場合,制御装置から出している4〜20mA/0〜100%の信号に対して,片方は20〜4mAで0〜100%ドライブ位置を持たせてバルブの開度を操作している場合もある。つまり,制御装置やアクチュエータの電源をダウンさせて作業をしなかればならない場合,信号は0mAとなり,二つある操作端は,片方は全閉,他方は全開となってしまう。そこで,安全を考えるとチェーンで固定してこの動きを停める必要がある。操作端のトルクはかなり強いので,動きを停めるチェーンは,太くて何重にも巻く必要がある。かといって運べないチェーンの重さでは困るので。停める操作端の数も多いと大変な作業となる。」

木下「ドライブを固定できる操作端に替えれば良いのに」




倉田 「・・・・そりゃそうだ。」

釜石 「そういう発想も大切ですね。」

第2部 第1話 了
このコンテンツは会員登録をされていない方も全文閲覧をしていただけるフリーのコンテンツです。
ご一読いただき,共感を見つけていただけましたら是非計装Cubeに会員登録を。