第12話 国産火力発電所建設,そして変圧貫流ボイラ制御へ

村上 正志
2006年05月01日
登場人物

85歳の翁
(某電力会社の退職エンジニア)

上村

78歳の翁
某電力会社の退職エンジニア
遠藤
聞き手

大沢

ナレータ 壮(ITTアナウンサー)

コンサルの大沢は,逗子のとある家先の縁側に腰掛け,二人の老人と談笑している。この二人は大沢の客先の部長に紹介してもらった某電力会社の退職エンジニアだ。しかし退職してからすでに30年以上経ている。はたしてまともな取材となるのだろうか,心の片隅で大沢はチラッと思っていた。

ナレータ:戦後,日本は,復興のステップに取り組むに,電力不足の課題という大きな問題を抱えていた。電力会社を作ったが,水力発電だけではまかないきれない。火力発電所建設の計画が立てられたが海外の企業に依存していては経済復興のスピードには,電力供給増強が間に合わない。そこで,国産火力発電所を建設できる技術力を国内企業が持つ必要があった。重工メーカーにその技術習得の話が来た。ボイラを作れ,タービンを作れ,発電機を作れ。その頃,ボイラを自前で作れるボイラ設計エンジニアは,日本にはいなかった。

大沢「まず,ボイラ設計のエンジニアを育てる必要があった訳ですが,日本にはいなかったのですね?」

上村「そうなのです。そこで,誰かに教えてもらわなければならない訳です。世界を見ると,欧州と北米しかいない訳ですが,事業用ボイラですから,ドラム式のような大型のボイラでなければならなかった訳です。」

大沢「当時,大型のボイラを建設できるところというとそれほど多くは無かったですよね。」

上村「勉強するにも,まず,国内の発電所を海外の企業に発注してから,現場建設を国内企業で担当して,教わっていくしかなかった訳です。」

大沢「教わるにも,国内では難しいですよね。」

上村「そうです。約半年以上,海外生活ですね。まず数ヶ月間,発注先のトレーニングを受けて,ボイラの基本を教わります。そして,発注したボイラの設計の一部を手伝うやり方で,ボイラの動かし方も教わっていく訳です。こうして,人間関係を作っておくことで,現場でボイラの調整をしていく自分達が困った時の相談先を発注先の海外のエンジニアに持つことができるようになった訳です。」

大沢「海外のボイラメーカーに発注して,国内重工メーカーで仕上げたのが,大村火力発電所なんですね。」

上村「そうなんです。そして,今度は自分達で設計したのが,小倉の発電所なのです。」

大沢「その時に課題は,様々あったと思いますが,一番大きな課題は何だったのでしょうか?」
上村「起動弁を捜すのに苦労しました。」
大沢「起動弁に苦労されたと言うのは?」

上村「ドラムから最初に出てくる蒸気は,ウェットなんですね。これを加熱してドライにする。ウェットな蒸気をタービンの羽に当てるとタービンの羽に穴が開くのです。だから,最初のウェットな蒸気は複水器へ戻します。蒸気がドライになって,タービンに渡せる条件を満たしたら,起動弁は閉まっていなければなりません。さらに,MFT(Main Fuel Trip)の時には,あるタイミングで開かなければならない。」


大沢「捜すと言ってもどこまで捜しに行かれたのですか?」

上村「北米と欧州のバルブメーカーを回って,結局,スイスのスルザーにしたのですが。」
大沢「そのまま使えたのですか?」
上村「スイスのスルザーは,スルザーボイラと言って,中型小型のボイラだったのです。それを事業用火力発電所向け大型ボイラにそのままは使えないので,仕様変更をして採用しました。ボイラには,どのような種類があるのかご存知ですか?」
大沢「全部は言えませんが。」
上村「大分類で丸ボイラ,水管ボイラ,特殊ボイラとありますが,ドラム式ボイラや貫流式ボイラは水管ボイラに入ります。 ドラム式ボイラと言っても,自然循環ボイラ,強制循環ボイラ,定圧貫流ボイラ,変圧貫流ボイラとがあります。自然循環ボイラには,直管形,曲管形,放射形があります。発電用大形ボイラで圧力17MPa(約175kgf/cm2g)以下の蒸気条件範囲では,自然循環式放射ボイラが使用されます。事業用火力発電プラントでは,熱効率の向上をはかるために540〜570℃の高温で,過熱器も一次と二次に分けて,設けられる。再熱サイクルも採用し,タービンの途中から蒸気を取り出して再加熱する再熱器が設けられます。例えば,蒸気量1000t/h,再熱蒸気量800t/hクラスでは,蒸気圧力最大連続負荷で,過熱器出口圧力17.4MPa(176kgf/cm2g),再熱器出口圧力で3.1MPa(30.9kgf/cm2g),蒸気温度は,過熱器出口で570℃,再熱器出口で569℃,給水温度はエコノマイザ入口で275℃です。」
大沢「勉強不足で申し訳ないのですが,強制循環式ドラムボイラとは,どこが違うのですか?」
上村「臨界圧力(22.129MPa)以下の亜臨界圧ボイラでは,高圧になるにしたがって飽和水と飽和蒸気の比重量差が小さくなることから,ボイラ水の循環力が減少する。この対策として循環ポンプを下降管の途中に設けます。それが強制循環式なのです。」
大沢「貫流ボイラの起こりについて,少しお話して頂けますでしょうか。」
上村「貫流ボイラは,一言で言って,ドラムが無く,給水量がそのまま管を通って蒸気量になるもので,1927年ドイツのシーメンス社が25t/hのベンソンボイラを1931年にスイスのスルザー社が8t/hのスルザーボイラをソ連がほぼ同時期にラムジンボイラを試作,製作し始めました。この三者から始まったのが貫流ボイラの主流となっています。ベンソンボイラは,開発当初から30年間,管寄せを置いた方式で,スルザーボイラは気水分離器を設ける方法を採用しました。今は,気水分離器を使用するのが主流のようです。 ベンソンボイラの例としては,出力60万kw用の超臨界圧貫流ボイラクラスでは,蒸気量1950t/h,蒸気圧力は,過熱器出口で25.1MPa(255kgf/cm2g),蒸気温度は,過熱器出口で542℃,再熱器出口で567℃。 アメリカで開発された出力100万kW用の超臨界圧貫流ボイラで,蒸気量3180t/h,蒸気圧力は過熱器出口で25.1MPa(255kgf/cm2g),蒸気温度は過熱器出口で543℃,再熱器出口で568℃。ですね。」
大沢「日本国内の重工メーカで採用している貫流ボイラの方式が異なると聞いているのですが?」
上村「海外ボイラメーカーと提携していた組み合わせで異なっています。ベンソンボイラ,スルザーボイラ,コンバッションボイラ,UPボイラ,フォスターボイラなどですね。」
大沢「もしかして,構造も違えば背丈も違うのですね。」
上村「そうです。背丈も横幅も違うのです。」
大沢「すると,バーナーも違うとか。」
上村「火炉のコーナーにバーナーを配置して,燃料排出のバーナー角度を変えるチルト式バーナーや,両サイドから吹き出す方式,などさまざまです。構造が違うのは,バーナーだけでなく,一度燃焼したガスを火炉の下から再度吹き込ませるGRF(ガス・リサーキュレーション・ファン)の構造を持つものや,火炉から出た高熱ガスを過熱器と再熱器へ流れるところに分配ダンパをつけて,熱量の流量配分を変えるものなど,いろいろです。また,燃料の種類によっても違います。石炭はミルで砕いて粉にして専用のバーナーを使います。重油のバーナーとガスのバーナーでも違います。」
大沢「定圧貫流ボイラと変圧貫流ボイラの変遷について,少しお話頂けますでしょうか?」
上村「それは電力事情によって,ニーズが変わってきたものです。供給と需要の関係で,需用電力の変化の話ですが,一般に朝からお昼までは,需用電力は増えて行きます。お昼休みに少し下がって,午後1時過ぎに最高需要数値となって,その後,下がってきます。このような一日の需用電力の変化を担当していたのは,水力発電所です。火力は変化の少ない季節対応のベースを担当していました。しかし,そのうち,水力発電所の分ではまかないきれなくなって,一日の変化対応の役割を火力発電所に求めた訳です。そうなると,定圧貫流ボイラよりは変圧貫流ボイラの方が反応が良くなる訳です。さらに,もう一つ理由がありまして,供給電力の周波数を保障しなければならなくなってきたのです。その理由として,送電効率の課題改善や,工場で周波数を利用して制御する機械や装置が出てきたこともあります。そこで,送電力の周波数をリアルに制御するためにも,ボイラとタービンの連動した制御が必要となって,変圧貫流式ボイラの登場となった訳です。」
大沢「そうなると,ボイラとタービンの連携した協調制御が必要となってくる訳ですね。」
上村「その制御の話は,私より遠藤さんがご専門ですよ。」
大沢「それでは,遠藤さん,ボイラ制御の変遷をお話して頂けますでしょうか?」
遠藤「やっと,出番ですね。」
大沢「ボイラ制御の最初は,空気式制御装置だったそうですね?」
遠藤「空気の圧力値で制御をしていましたね。弁当箱のようなものが,加算器,積分器,微分器,ファンクション・プログラム演算器で,それらを組み合わせたんだよ。カムの削り方でプログラムが組めるんだから。」
大沢「その後,電子式アナログ制御装置,デジタル制御装置と変わってきたんですよね。」
遠藤「そうそう,空気式制御装置はヤスリと六角レンチが道具で,電子式アナログ制御装置は,配線剥きのストリッパ,配線巻きつけのガン,それと半田ごてだった。デジタル制御装置になって,パソコンで,今ではノートパソコンになっている。」
大沢「ボイラ制御の基本についてお話して頂けますでしょうか?」
遠藤「ボイラ制御の基本は,水,空気,燃料の三つを制御することにあるのですが,ドラム式の制御対象は,ドラム内の圧力を燃焼制御で制御し,ドラムの水と蒸気の境目レベル制御を給水量で制御します。主蒸気流量は,ドラム内圧力とタービン側のガバナ弁の開度で決まります。タービン側に流れる蒸気温度は,過熱器の入口にあるスプレー弁で制御します。 貫流式ボイラの制御目的となる対象は,主蒸気流量,主蒸気圧力,主蒸気温度の三つで,再熱器がある場合は再熱器温度が加わります。それから,欧米でのボイラ制御では,わりとシンプルなフィードバック制御が主に使われていました。しかし,日本のニーズにはそれでは,不充分なことが解ってきました。そこで,水と燃焼,燃料と空気には,それぞれ水燃比制御,空燃比制御を構成し,特に変圧ドラムや変圧貫流のボイラでは,この水と燃料と空気の関係が重要となってくる訳です。」
大沢「かなり,欧米と日本の事業用ボイラ制御に違いがあるのですね。」
遠藤「制御モードにも,特徴があります。ボイラ入力制御モード,タービン追従制御モード,ボイラ追従制御モード,協調制御モードとあります。また,緊急時の抑制作動にも,ランバック動作,クロスリミット動作,FCB(フェイル・カット・バック),MFT(メイン・フェイル・トリップ)があります。欧米は当初MFTだけだったのですけどね。」
大沢「ランバック動作って何ですか?」
遠藤「ランバック動作は,BFP(ボイラ・フォースド・ポンプ)やFDF(フォースド・ドラフト・ファン),IDF(インレット・ドラフト・ファン),GRF(ガス・リサーキュレーション・ファン)など,二台の機器で対応しているもののどちらか一台が故障した場合,正常な方で供給できる負荷まで,スローダウンさせる仕掛けの制御です。」
大沢「クロスリミット動作とは?」
遠藤「クロスリミット動作は,水,燃料,空気の関係がアンバランスになった時に貫流ボイラは危険な状態になります。それを早めに修正する抑制制御のことです。」
大沢「では,FCBとは?」
遠藤「燃料を5%までカットすることで,危険域からの脱出をはかるもので,一時的に主蒸気圧力が上がってしまいますが,最悪,安全弁が開いて,主蒸気を外気に逃すことでボイラ内の爆発を防ぐことができるようになっています。しかし,この安全弁が開かなくて済むように制御するのがエンジニアの技能ですね。」
大沢「ボイラ制御の中で,難しいところとは何でしょうか?」
遠藤「一番難しいのは,電力需要事情に対応しなければならない電力会社の事情に,ボイラの構造設計が対応できるまでは良いのですが,建設計画から稼動まで時間がかなりかかります。その間にニーズが変わってしまって,ボイラ構造設計では対応できなくなってきた時に,最後に頼るのが,ボイラ制御の計装技術やエンジニアの技能なんですね。最後の最後には,智慧が浮かんで来ることに期待するような事態にまで追い詰められる。しかし,意外と,追い詰められてくると,アイディアが出てくるんですね。不思議と。」
大沢「変圧貫流ボイラでの主蒸気圧力と主蒸気流量と主蒸気温度の制御で,どれがどう難しいのかの話ですが?」
遠藤「貫流ボイラの場合は,送り出した水の量がそのままドライ蒸気になって出て行くので,主蒸気流量は,給水流量で決まります。この時,タービン側の受け側も同じ流量を受けることになります。ですから,タービン制御のガバナ弁もボイラ側の送り出す流量に対応した動きである必要がでてきますので,ボイラとタービンの協調制御モードが必要という訳です。主蒸気圧力は定圧貫流の場合は超臨界圧で246気圧。変圧貫流の場合は,運転時の負荷を取っているときの最低主蒸気圧力は,ボイラの構造で異なってきますが,それ以下もある訳です。送り出す給水の圧力がそのまま蒸気の圧力になるのですから,給水ポンプの制御で主蒸気圧力も決まります。問題は,主蒸気温度ですね。ボイラの構造や特性,癖を理解しないで,制御設計したり,チューニングをすると,負荷を上げ下げすることで,主蒸気温度はガタガタになります。主蒸気温度制御はスプレイ弁の開度で行うというのは,ドラム式ボイラの世界です。貫流ボイラの場合は,スプレイ弁も使いますが,給水量と燃焼によるカロリーの伝導率のバランスも主蒸気温度に効いてきます。また,チルトバーナー式のボイラの場合は,チルトバーナーの角度を上げると火炉の上の方に配置している過熱器へカロリー配分が移動します。つまり,ファイヤーボールの位置が上がって,伸びてくる訳です。分配ダンパを使用していくボイラでは,分配ダンパの角度で過熱器に回るカロリーが変わります。GRFが付いているボイラでは,GRFのガス流量を多くするとファイヤーが伸びて,火炉の上の方のに配置の過熱器や再熱器へカロリー配分が伸びてきます。それで,主蒸気温度は変わってきます。ですから,スプレイ弁での主蒸気温度制御は,過渡的な効果として使用し,過熱器でのカロリー伝達に影響を持つ操作端での制御でじわっと調整するという制御を行う訳です。」
大沢「それは,聞いていると,かなり,難しいですよね。熟練の技ですね。」
遠藤「ボイラは生き物でね。やってみるうちに,ボイラの方から,『こうしてくれる?』と教えてくれるんですよ。」
大沢「なるほど。今日は,長時間,ありがとうございました。」

大沢の日記後記:お二方とも,杖をついてふらふら歩くご老人ではあるんだが,頭の中は,しっかりしているのが,怖いよなあ。」
(終)

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