このコンテンツは会員登録をされていない方も全文閲覧をしていただけるフリーのコンテンツです。
ご一読いただき、共感を見つけていただけましたら是非計装Cubeに会員登録を。
海外計装事情

第1話 「PA関連の国際標準最高会議・・・IEC TC65オタワ総会より」

執筆担当者:佐々 通久
2005年7月12日

■IEC TC65総会

2005年5月2日から6日まで5日間,ゴールデンウイークの最中,カナダの首都オタワでIEC (The International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議) TC65(Technical Committee:専門委員会)の総会が開催された。IECには,112のTCが活動中であるが,各TCは進捗状況の確認と問題点の抽出・解決のために18ヶ月ごとに開催される。IEC TC65(工業プロセス制御)では約40カ国(Pメンバー:30カ国,Oメンバー:10カ国)の代表が参加し,TC65議長,幹事事務局および各SC (Subcommittee:分科委員会)の議長,事務局から状況報告と今後の活動方針の説明を受ける。全体では百数十名の参加者となる。日本国内では,JISC(日本工業標準調査会)よりJEMIMA(日本電気計測器工業会)がIEC TC65標準化業務を受託している。

今回は,IEC TC65国内対策委員会(NC)の委員長以下3名が日本代表として参加した。今総会では,前回のマドリッド総会(2003年9月)以降の懸案事項や今後1−2年の重要活動方針が審議された。IEC TC65の全体像を掴み,今後の標準化の動向を決める上では大変重要な会議であり,そのトピックスとその背景について簡単に紹介する。 2005年5月2日から6日まで5日間,ゴールデンウイークの最中,カナダの首都オタワでIEC (The International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議) TC65(Technical Committee:専門委員会)の総会が開催された。IECには,112のTCが活動中であるが,各TCは進捗状況の確認と問題点の抽出・解決のために18ヶ月ごとに開催される。IEC TC65(工業プロセス制御)では約40カ国(Pメンバー:30カ国,Oメンバー:10カ国)の代表が参加し,TC65議長,幹事事務局および各SC (Subcommittee:分科委員会)の議長,事務局から状況報告と今後の活動方針の説明を受ける。全体では百数十名の参加者となる。日本国内では,JISC(日本工業標準調査会)よりJEMIMA(日本電気計測器工業会)がIEC TC65標準化業務を受託している。 今回は,IEC TC65国内対策委員会(NC)の委員長以下3名が日本代表として参加した。今総会では,前回のマドリッド総会(2003年9月)以降の懸案事項や今後1−2年の重要活動方針が審議された。IEC TC65の全体像を掴み,今後の標準化の動向を決める上では大変重要な会議であり,そのトピックスとその背景について簡単に紹介する。

TC65会議風景:初日はコの字型にABC順に配列されていたが大きくなりすぎ、2日目より教室形式に配置が変更され、より親密な議論ができるようになった。


■IEC TC65(Industrial Process Measurement and Control:工業プロセス計測制御)

TC65は工業プロセス計装制御分野の標準化を担当,その範囲は多岐であり,IECの他のTC/SC,ISO・ISA等他組織のTCとも密接に連携を取りながら各標準化が進められている。TC65は1990年代初頭から,SC65A:システム側面(Aspect),SC65B:計測制御機器(Device),SC65C:デジタル通信(Communication),SC65D:分析機器の4つの分科委員会(SC)で構成されている。全体の概念に関わる部分をSC65Aで方向付け,関連する分野別/機器別の詳細をSC65Bで審議している。これらの新しい標準化要求を具現化するための基幹技術としてのデジタル化技術についてSC65C(Digital Communication)で審議している。

■TC65総会概要

総会は,諮問委員会(Advisory Group),SC65A,SC65B,SC65C,SC65Dの各サブコミッティーの順でSCごとの進捗状況,問題点/解決策の審議が行われ,最後にTC65全体会議で整理・確認する。新作業原案(New Work Item)や新技術についてワークショップが開催され,委員の理解を深める。会議の内容自体は純技術的であるが,テーマによっては地域(欧州,北米,アジア)や国家の技術・経済環境に大きく関連するため,個別にオフサイト会議,情報交換が行われる。各SCレベルで全体会議に答申するテーマについては会議中に投票が行われるので事前の情報収集と意思決定が必要である。このため出席者は結構忙しい毎日を送ることになる。今回の総会には16カ国から総勢80余名が参加した。総会前後に個別WGも開催されそれらを含めると120名以上がオタワに集結した。前後の会議を含め出席者数が目立ったのは,ドイツ:20名弱,中国:10名,近年の中国の積極的な対応は注目すべきである。また,IECの他のTCおよびISO・ISAなどの他の規格化グループからのリエゾンの参加もあり,ますます活況を呈し,最近の計測制御分野のデジタル化の波を象徴している。

■重点規格(キーワード:システムモデル,デバイスプロファイル,デジタル通信,安全,セキュリティー)

TC65全体に一貫するテーマは,工業プロセス計測制御分野の“デジタル化の波”を正しく社会に受け入れてもらうための技術インフラに関連の標準化である。
一つは9・11以降大きなテーマである計測制御システム分野のサイバーセキュリティー,および機能安全(IEC61508)の全体指針,個別機器/デジタル通信での対応詳細である。もう一つは,計測制御機器のデジタル表現(物理的・機能的):Device Profile定義と個別ライブラリー化,および高速リアルタイムデジタル通信(RTE・安全・セキュリティー)に関するテーマである。

これらの基本になるシステムモデルは,IEC62264:Enterprise−Control System Integration (SC65A JWG15で審議中)で定義されている。経営管理企業モデル(Enterprise Model)と生産システムモデル(Manufacturing and Control System Model)を統合し,ダイナミックな企業活動を構築する基礎となる。あくまでも実体は概念モデルであり企業経営・生産システムの概念的構造を示している。ここで定義された概念モデルを基礎にして,各サブシステムレベルの安全・セキュリティー・機器機能・通信の各項目の詳細が決められていく。最終的には65Bの個別機器仕様に反映される。またデジタル通信はSC65Cで詳細化される。

■戦略的背景(国際規格の環境変化)

2001年の北京会議,2003年のマドリッド会議(日本は不参加),そして今回のオタワ会議を通じ筆者が感じたことを率直に記す。

IEC TC65に限らず,近年の国際標準化活動は国家の経済・貿易活動と密接な関連性を持ちつつある。単一企業の経済的利害関係はもとより国家の重要な戦略の輪の中に組み入れられつつある。その背景の中心に,1995年に締結されたWTO/TBT協定(世界貿易機関/Technical Barriers to Trade:貿易の技術的障害)とFTA(自由貿易協定)がある。

WTO/TBT協定は,1979年4月に国際協定として合意されたGATTスタンダードコードが1994年5月WTO/TBT協定として改訂合意され,その1年後1995年5月にWTO協定に包含された。

TBTは,WTO包括協定としてWTO加盟国全てに適用され,工業製品等のグローバルな環境下での自由な流通が,各国の異なる規制や規格により必要以上に妨げられることのないよう,自由貿易/自由競争の促進を前提としている。

加盟国に対し,強制規格・任意規格・適合性評価手続き(規格・基準認証制度)について,国際標準規格やガイドラインを基礎として制定されること,および必要な手続きを経て加盟国の意見を受け付けることを義務付けている。また,強制規格および適合性評価手続きの結果,同等な強制規格についてはできるだけ多国間での相互認証を受け入れることを推奨している。この結果,各国の規制改革が進展し,経済のグローバル化とともに貿易の円滑化拡大の基礎として,国際規格と適合性評価手続きの重要性が見直された。

強制法規と相互認証が国際貿易促進の両輪として働き,各国の強制法規の前提となる国際規格の重要性が増し,各種規格・基準の国際整合性の確保は一層重要な課題となった。FTAは,二国間または複数国間で締結する貿易上の取り決めで,加盟国域内の関税や輸出入制限など関税によらない貿易障壁を撤廃する事で,貿易の拡大を通じ域内の経済を活性化させる試みである。原則は二国間または多国間で取り決めることであり,この時に強制法規と相互認証の基準を保持しているかどうかが重要な交渉材料となる。また,近年のFTAはモノの貿易のみならず,サービス貿易の自由化,知的所有権や紛争解決手続きの取り決めなど包括的な協定が増えてきており,さらに投資ルール,電子商取引,環境など,WTO(世界貿易機関)でも未だ決められていない規定を盛り込む動きもあり,技術戦略的な対応が必要になってきている。

この結果,IECでは国際規格化促進(迅速化)の方針が出され,ITA/PAS(Industry Technical Agreement/ Publicly Available Specification)の規格促進策がこうじられた。古典的な国家間の合意形成プロセスを経た国際規格化から,産業界に役立つ新技術を機会損失することなく適用するための国家の枠に縛られない国際規格化プロセスを追加した。従来のような国際規格(IS)化としてルール化された過程と手順から離れて,現実的,実際的に技術仕様を確立する。この作業の提案者,参加者にはあまり制限がなく,業界標準コンソーシアム,業界団体だけでなく企業とくに有力な多国籍企業が参画できる。またこの作業で発生する知的財産権も参加者間で共有されるなどの特徴を持たせた。

IECが,業界標準コンソーシアムや有力な多国籍企業などから提案された技術仕様をPAS(Defact Standard 文書)として発行する。PASは,国際規格(IS)の一構成文書として取り扱われる一貫した規格として扱われ,従来ややもすると,デファクトスタンダードが既存のISと対立するように見られることから脱却しようとする試みでもある。また,PASは,その市場で認知度と有効性に応じて,IEC国際規格とすることが可能である。

このような背景から先進工業国は競って強制法規の制定とその前提となる国際規格制定への関与を積極的に強化している。特に,欧州経済圏,北米経済圏,東アジア/東南アジア経済圏の主要工業国は競って国際規格化活動への取り組みを強めている。特にTC65では,欧州:ドイツ,フランス,イタリア,英国, 東アジア:日本,中国,北米:米国,カナダの取り組みが目を引く。TC65では,ドイツのリーダシップが顕著であり,巨大メーカの実力か,オタワ会議でも約1/3はドイツからの参加者である。次に特に目立っているのが中国の参画である。

■中国の国際標準化戦略

2001年11月10日のWTO閣僚会議(開催地 ドーハ/カタール)で中国のWTO加盟が承認されたことにより,中国経済のグローバル化は一気に加速され,中国政府の国際標準規格に対する対応も一変した。

アジアにおける中国の位置付けも世界の中の製造大国としてアジア経済貿易圏における主導権を模索している。中国,日本,ASEAN諸国との共存共栄を追及する考え方が顕在化し,日本とASEAN諸国,中国とASEAN諸国という競争関係・パートナーシップ関係が共存しつつある。また,巨大消費国としての性質も顕在化し,中国の消費者が国際規格を決めるといっても過言ではない程その影響力は無視できないところに来ている。TC65総会の中国代表もそのような雰囲気を醸し出していた。

特に中国とASEAN加盟10カ国は,10年以内に自由貿易協定(FTA)締結することを合意しており,ASEAN諸国内では,既に殆どの製品が無関税のシンガポールや,自動車,農産品で輸出競争力のあるタイ王国が,このFTA構想に積極的な姿勢を見せている。日本も同様にASEAN諸国に対し包括的経済連携を呼びかけ専門家による多国間協議を進めている。このように,中国のWTO加盟により,多国間貿易の基本としての国際標準,国内産業発展/質的向上を目的とした国家標準規格化/強制認証制度の活用等,中国の国家としての戦略が明確になりつつある。

2002年4月のASEM北京会議を皮切りに,2002年4月から10月にかけてIECの40以上のTC(Technical Committee:専門委員会)が毎週のように北京で開催され,10月27日から11月1日には第66回IEC大会が北京で開催され一連のIEC国際規格化活動の現状を急速にキャッチアップした。

また,強制法規・任意規格の作成と規格認証制度の導入も着々と進みつつあり,CCC(China Compulsory Certification)認証制度のように我が国の産業界にもその影響が多大であった強制規格と適合性認証基準の制定が進みつつある。

中国の国際標準化活動への参画は,1988年に中華人民共和国国際標準化法が頒布され,国家技術監督局が設立されて以降次第に活性化されてきた。1990年には初めてIEC第54回大会が北京で開催された。

中国のWTO加盟推進に合わせ,中国政府の大幅な機構改革が実施され,同時に国務院内にそれまでの国家技術監督局に代わる独立行政組織として,中国国家標準化管理委員会(中華人民共和国国家標準化管理局)が設立された。前項で記したように,2002年11月のWTO加盟承認後は,国際規格を参照した強制法規・任意規格の作成と強制認証制度の導入が国家政策・戦略として推進された。

(社)日本電気計測器工業会(JEMIMA)の担当するIEC TC65 国内委員会に相当する中国内組織は,日本政府の経済産業省に相当する国務院経済貿易委員会傘下の機械工業連合会組織の外郭団体(機電一体化協会,儀器儀表工業協会等),および研究機関(上海自動化研究所,経済産業技術研究所:ITEI等)のメンバにより構成され,事務局はITEI内に設置されている。

TC65 SC65C/WG6:Digital Communication(Fieldbus:IEC 61158), SC65C/WG7:Function Blocks for Process Control(IEC 61804),SC65C/WG11:Real Time Ethernet, SC65C/WG12::Communications for Functional Safety, SC65C/WG13: Cyber Security等デジタル化の波にうまく同調し積極的な参画をしている。国際投票においても商業的観点から重要なポジションを占めつつある。特に,工業用イーサネット(Real Time Ethernet)ではEPAとしてPA用イーサネットの独自規格を提案しPASとして承認された。商業的規模の大きい中国市場が結果として世界の標準化の行方を左右する地位を占めつつある。インターネットの普及度(加入者数),携帯電話の加入者数等他の国を圧倒していることは事実である。このような観点で,中国政府の積極的な国際標準の取り込み,強制法規としての国家標準の制定,強制認証制度の運用等国内産業育成と貿易(輸出)拡大を目的とした戦略的対応姿勢を背景として今回のオタワ総会にも10数名の専門家が参加した。

■オタワ総会雑感


カナダの国会議事堂と咲き始めたチューリップ
 5月初頭のオタワは,春の兆しも強くなり厳しい冬の寒さから解放され草花が芽付く穏やかな気候へと移り変わる時節であった。翌週からチューリップ祭りが開かれるのだがその花の咲き具合はちょっと心配した。会議も終わりにさしかかった頃ようやく花が咲き始めた。

幸いにして,今回の総会では緊迫した投票案件はなく表面的には穏やかな会議であった。これも重要な案件にはPASという規格化促進アプローチが適用されているため,企業/団体等の資格でPASの提案が行えるため,米国,ドイツ,日本,中国の企業/コンソーシアムから10種以上の工業用イーサネットのPASが提案されそれぞれPASとして承認された。適材適所というかニーズや地域事情に応じた工業用イーサネットが登場した。この後には適合性評価基準が制定され,それぞれ国家の強制法規として自国の経済に貢献して行くことと思われるが,何かとうさんくさい臭いもする。単なる二国間交渉,相互認証交渉の道具として使われるケースも出てくるであろう。ここでもまた,国際規格とは何か?どうあるべきかという疑問が沸いてきた。最近の国際規格化活動は個人的には技術的に新しい基準を作ろうという魅力・意欲・熱意,が薄れ,単なる企業活動の延長のようにも思えてならない。

以前から思っていたが,このような小さな分野の国際会議でも公式な会議となるとABC順に席が決められる。オーストラリアかオーストリアが先頭で最後が英国(United Kingdom),米国(United States)となる。日本(Japan)の前は,イタリー(Italy),その前はドイツ(Germany)となる。もちろんドイツの前にはフランス(France)が着席する。おそらく戦前の国際連盟でもそのような着席順になっていたに違いない。 なんとか同盟とやらはこのような席の配置から自然に出来たのかと考える。

投票の順序もABC順でYes/Noを発言して行くので中国の投票はいつも注目を浴びる。日本はいつも真ん中で貢献度が高い割には注目されない。そんな席順である。その点,英国,米国は全体の意見を参考にしながら発言できるためあまり悪者にならずに済むようである。但し,投票が割れた時は最後の2国で決着を付けなければならないこともある。

このような視点から,会議の合間には色々な意見交換がほぼ対角線上に行われる。中国勢は全体の意見を把握するのに悪戦苦闘している。

フィールドバスの投票では何とか同盟とは異なりフランス,イタリー,英国,米国と同調した。すなわち,G抜きの同盟であった。この時中国はまだ投票に参加していなかった。10年前の話である。

次回以降,それぞれの規格化トッピクスについて私感を交えた解説を加えて行きたい。