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防爆規格の国際化はどこまで進むか

月刊『計装』編集部 野呂 淳矢
2011年5月
キーワード「安全/防爆/トレンド」

1.はじめに

 石油精製・石油化学などの可燃性ガス・引火性液体を使用する工場・プラントでは爆発性雰囲気の除去に努めなければならないが,要求される安全な環境を確保できなければ,爆発の原因となる電気機械器具は法的に認められた防爆構造機器を使用することが義務づけられている。
  国内の防爆法規として1969年(昭和44年)に電気機械器具防爆構造規格が制定されたが,その後,新しい技術を取り入れてきた国際規格IECと技術的に距離が広がることになる。この状況に対応するためIEC規格に則っとり製造された防爆機器を日本の防爆規格製品と同等として扱うこととした。そこで従来の規格を“構造規格”,IEC規格に準拠した規格を“技術的基準”と呼んでいる。これは従来の構造規格で設計する国内メーカに配慮するとともに,海外製品を取り扱うベンダの要求に応えるために執られた措置であるが,そのため検定基準が二通り存在することになり,使用するユーザの現場には構造規格と技術的基準を表す防爆記号「Ex」を冠した防爆機器が混在する日本特有の状況が今も続いている。

2.防爆検定制度

 防爆型式検定を受けるためには検定の申請者が@対象防爆機器の製造設備および検査設備,A工作責任者,B検査組織,C検査規程を有することが条件とされる。しかし,海外製品を輸入販売するベンダは製造拠点である海外に同等の設備などがあれば日本国内にはこれら設備などは必要ない。また,エンドユーザが自ら輸入して検定申請を行うことも可能である。
  検定に必要なものは@申請書類,A供試品,B手数料で,申請書類はa)新規検定申請書,b)防爆機器の構造図,回路図,c)防爆機器の性能・取り扱い説明書,d)製造検査設備等の概要を記した書面(上記,製造・検査設備,工作責任者,検査組織,検査規程),e)あらかじめ申請者が行った防爆機器の検査結果である。書式が定められている申請書類は日本語でなければならないが,構造図や回路図などの図面関係 は日本語または英語でも可能である。

写真1 工場電気設備防爆指針
(国際規格に整合した技術指針2008)
検定に使用される基準は構造規格の場合は「工場電気設備防爆指針(ガス蒸気防爆2006)」を,技術的基準では「防爆構造電気機械器具型式検定ガイド(国際規格に整合した技術的基準関係)」を使用し,申請者が申請する機器に応じてどちらかを選択する。後者の検定ガイドは1996年に産業安全技術協会(TIIS)が発刊したものだが,2010年8月の厚生労働省の通達により,2011年2月24日からは技術的基準(IEC規格準拠)の防爆機器については労働安全衛生総合研究所が定めた「工場電気設備防爆指針(国際規格に整合した技術指針2008)」(写真1)を検定に使用することとなった。
  あらたに技術的基準の検定に使用されることとなった「国際規格に整合した技術指針2008」の前バージョンとして「国際規格に整合した技術指針2006」が存在するが,これは,2008年の電気機械器具防爆構造規格の改正によりあらたに「樹脂充てん防爆構造(タイプm)」,「非点火防爆構造(タイプn)」の国内での使用が開始されることにともない急遽,2008年版として改訂されたものである。
  今回の技術的基準の2008年版への移行はこれまでの検定ガイドの内容がIEC規格の改正にともない技術的に“旧く”なったことへの対応である。ただし,2008年版発行後もIEC規格は改正を続けており,いわば2008年版は現IEC規格の一世代前であり,検定ガイドは二世代前といったところで,今後,最新のIEC規格と整合性を取るためにはあらたな法律・基準の改正が必要となる。

3.検定サポート・サービス会社

 大手メーカなどでは専門の防爆担当者を有するが,中小や輸入商社,外資系ベンダなどでは専任者 がいないため申請業務の負荷が高いケースもある。申請業務の書類作成や手続きなどは経験がないと検定合格までに不要な時間を要することとなり,そのことがビジネスチャンスを逃すことにもなりかねない。この検定業務を代行・サポートするコンサルティング会社が国内にいくつか存在する(表1)。
 
表1 国内防爆検定サポート会社


表2 指定外国検査機関(2011年3月16日現在)



図1 認定機関と狭義の適合性評価の関係(出典:『世界の規格便覧 第2巻 欧州・ロシア・アフリカ編』,
日本規格協会,2005年)


 潟Oーバークリエーション(埼玉県久喜市)は防爆検定,CEマーキング認証などのサポート業務を目的に2009年に設立,代表である吉川氏は元メーカにおいて長らく防爆機器を担当し,検定申請業務の経験も豊富だ。同社は国内のTIISの検定申請サポートのほか,海外の北米(UL,FM),欧州(IEC,ATEX),アジアなどの規格認証もサポートしており,これまでのクライアントからの依頼の割合はほぼ半々とのことだ。
  一般に国内製品に比べ,海外製品の国内防爆検定の合格のハードルは高いと言われている。指定外国検査機関(表2)により認証を受けた海外製防爆機器はそのテストレポートをTIISへの申請に必要な検定書類の「申請者があらかじめ行った防爆機器の検査結果」として援用される。ただし,指定外国検査機関以外の試験・検査機関の場合でもTIISが要求するデータとして整合していれば同様に扱われる。
  欧州の適合性評価機関(CAB)(図1)は認証機関としての機能とともに評価試験サービスも行っており,メーカはCABに評価試験から認証までを一括して委託し,メーカ自身に適合証明書はあるものの評価試験の詳細なドキュメントがないことが多い。このため,日本の輸入業者や外資系ベンダが海外の製造元に評価試験ドキュメントを求めても適合証明書があれば充分とその要求が理解されず,入手に手間取り,合格までに時間が掛かるケースもある。基準内容の差異はもとより,このような国内と海外との検定機関,認証機関とメーカとの関係や手続き上の要求事項の違いをあらかじめ把握しておくことは海外製品の国内検定をスムーズに行うために重要である。
  現在,指定外国検査機関は3機関あるがその中のDEKRA Certification B.V.(オランダ)は日本において,DEKRAサーティフィケーション・ジャパン梶i東京都三鷹市)として日本で業務展開している。もともとKEMA(オランダ)の日本法人キーマ・クオリティ・ジャパンとして医療機器の認証サポートなどを2005年から開始してきたが,DEKRAによるKEMAの評価・認証業務部門の買収により,2011年1月から社名が変更された。主要業務は欧州規格IECEx/ATEXの評価・認証であるが,TIISやNEPSI(中国),北米規格などの認証取得もサポート(同社ではガイドと表現)している。国内のTIIS検定の相談もコンスタントに受けているとのことだが,クライアントに対して将来的なグローバル展開の観点からIECEx/ATEX規格への対応や指定外国検査機関制度を利用したDEKRA Certification B.V.での認証サポートを推奨しているとのことだ。なお,2003年設立の潟Cーエス技研(東京都三鷹市)はこのDEKRAサーティフィケーション・ジャパンとKEMA時代から協力し,国内防爆申請,海外防爆ATEX/IECEx適合認証取得などのサポート業務を行っている。
  今回の検定ガイドから国際規格に整合した技術指針2008への移行はIEC規格にすでに対応している海外メーカにとっては防爆機器そのものの性能・仕様などは問題がないが,たとえば本質安全防爆機器の場合にIECやATEXでは回路図等の提出でクリアされるものが,TIISでは評価試験が要求される場合もあり注意が必要だ。また,非金属材料の容器では検定ガイドにおいては性能規程といえる内容であった項目が,国際規格に整合した技術指針2008では具体的な数値が求められる仕様規程となるなど,変更された点がいくつかある。  

4.防爆規格・基準の国際化への道のり

  かつて自民党の小泉内閣では規制緩和の一環として2002年に「構造改革特別区域」制度を実施,地方自治体や民間企業が提案し,認定された事業に限って法律の枠を緩和し,事業を推進する制度である。多くは地球環境対策や福祉事業などが認定されたが,某石油会社はこの認定事業の公募に対して当時まだ国内では使用が認められていなかった非点火防爆構造(タイプn)の海外製PDAの活用による操業・保守サポート業務を提案したが,結果は認定されなかった。当時,勢いのあった規制緩和の波も安全に関する法律の壁を越えることができなかったのだが,その数年後,防爆法規の改正により,タイプn,タイプmの国内での使用が解禁となった。<br>
  海外(特に欧州)規格に精通する人々からは日本の防爆規格の独自性や検定のあり方が批判され,また海外メーカから見ると日本は特殊な国のように映るのかもしれない。そのような批判もあり電気機械器具防爆構造規格の改正により技術的基準が制定されたが,結果,ダブルスタンダードとなり,非常にわかりづらいことになってしまった。このようなダブルスタンダードを解消するために最新版IEC防爆規格と整合性を図るために電気機械器具防爆構造規格の改正を現在,2011年度中を目標に作業が進行していると聞く。それが実現すれば,これまでの構造規格は事実上,廃止となり,IEC規格に準じた内容に一本化されることになるが,政治的な要因も多くからみ,確定とまでは言えないようだ。
  また,TIISでは第二試験棟の設立など,IECExシステムの認証機関(Ex Certification Body:ExCB),試験所(Ex Testing Laboratory:ExTL)の申請に向けて準備を進めている。しかし,経済産業省が求めているIECExシステムの法律的な根拠を厚生労働省が未だに示せないでいるため,IECExシステムの国内導入にはまだ時間がかかりそうである。
  IECExシステムは導入した両国が相手国のIECExシステムExCB・ExTLで認証された防爆機器を自国のIECExシステムExCB・ExTLで認証されたものとして扱うシステムである。しかし,実際にはIECExシステムを何の障壁もなく受け入れているのは同システムの提唱者であるオーストラリアをはじめとしたオセアニア地区だけであり,しかもオーストラリアの防爆機器メーカからは反発も多いとのことだ。ただし,IECEx取得により国際的にはその製品の受け入れが容易となることは確かのようで,中国などではIECEx取得製品は比較的,スムーズに受け入れられるようだ。
 
 

5.おわりに

  戦後,日本はGHQ(米国)の指導のもと,それまでの政治・行政,教育,経済などのシステムを改革したが,日本の耐圧防爆志向も米国のそれに倣ったと以前,聞いたことがある。土地も人間も大きい米国ならば,ごつい耐圧防爆機器へと向かうのは納得できるが,そうではない日本が本質安全防爆へ向かわなかったことをみるとあながち作り話ではないようだ。
  そして,その“耐圧”を“米国”に置き換えると,今の日本の置かれている状況が見えてくる。戦後,冷戦時代に米国一辺倒できた日本は劇的に変化するアジアから取り残されている観は否めない。中国をはじめとした新興国は国際的に評価,認証された最新の技術,規格の受け入れに対して積極的である。
  現在,TPP(Trans-Pacific Partnership:環太平洋戦略的経済連携協定)への参加がそれぞれの立場の利害が交錯し,難しい選択を迫られている。防爆機器についても自由な取引をあらたなビジネスチャンスと捉えるか,驚異と捉えるかその立場により当然,異なる。ただ,海外では当たり前に使用される機器を国内では使用できず被る国内ユーザのデメリットはグローバルな競争が求められる現在,決して小さくない。