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計装Cube25
プラントにおけるモバイルモニタリングの行方

牛H業技術社  稲橋 一彦
1998/10

1.はじめに

 一般にモバイルというとモバイルコンピューティングを意味し,この数年の間にビジネスを中心にした分野で急速に普及した概念である。業務の場でコンピュータ環境が整い,コンピュータに支援されることに慣れてくると,オフィスの外でもそのメリットを享受しようと考えるのは自然な成り行きである。もちろん,そのための技術的な前提として,パソコンの小型化,PDA(携帯情報端末),H/PC(ハンドヘルドPC)といったツールの開発と,コンピュータネットワークの進展や,携帯電話,PHSといった手軽な通信手段の普及が欠かせない。
 一方,装置型産業におけるプラント操業においても,DCSあるいはパソコンによりディジタル計装化され,CRTオペレーションが当たり前となっている。そして計装システムが設置された計器室の外で,パトロールやメンテナンスの際に,計装システムやコンピュータデータベースとコミュニケーションできればと考えるのは,これまた自然なことである。こうした計装ユーザのニーズは,'90年代の初期に既に現れ始めていたが,当時はそれを実現するツールや通信手段が整っていなかった。そこで最近になって,計装ユーザは,ニーズを実現する手段として,ビジネス分野で急速な普及を見せ始めたモバイル機器の活用を考え始めた。とはいえ,モバイル機器とPHSや無線と組み合わせた情報システムの導入は,製造分野では倉庫管理やディスクリートラインなどで見られるものの,装置産業での活用は途についたばかりである。
 そこでこのレポートでは,導入ユーザのみならず,テスト/スタディ中のユーザ,あるいは興味を寄せているユーザなどの意見を総合的にまとめ,プラントにおけるモバイル活用の姿を追う。

2.モバイルモニタリングとは

 モバイルモニタリングとは,編集部の造語である。モバイルコンピューティングの,必要に応じていつでも,どこでも情報のやりとりができるという概念1)と,先に述べた計器室の外でもシステム情報を得たいというニーズをつないだものである。つまり,現場にいながら(点検,巡回,保守などのため),計器室のデータを参照できること,またはモバイルによるプラントの監視操作。そのためのツールは,専用・汎用を問わず,データ入力部,情報表示部を持つ携帯機器で,通信は自由度を考え基本的には無線式と考えていた。
 当初,専用機も対象にして取材を始めたが,実際のユーザの考え方は,ツールに防水や防爆などのニーズはあるものの基本的には汎用品の活用で問題はなく,通信方式はPHS2)あるいはSS無線3,4)というのが各業種ユーザに共通している。
 一方,用途についての考え方は業種やプラントの寿命あるいは現在抱えている問題意識などにより,現状はかなり異なっている。
 無線のメリットは,ケーブル費およびその敷設費が不要であることとともに,工場設備のレイアウト変更に容易に対応できることにあろう。またモバイルということは,それを使用する人間の存在を前提にしている。
 つまり設備更新・レイアウト変更がある時間スパンの中で考えられ,人が介在するプラントとなると,倉庫・物流とともに食品・薬品・化学などのバッチプラントであり,この分野でのモバイル活用は業務革新の方向を創出し得る。
 一方,寿命の長いプラントあるいは人があまり介在しない連続プラントでは,設備の点検・保守面において,履歴管理や管理体制などにメリットが見つけられれば,モバイル活用の可能性があろう。現場で計器室の情報を得ることに関しては,あれば便利だが費用対効果の問題であり,現在どうしても必要だという段階とはいえないようだ。

3.モバイルモニタリングによる操業・設備管理の革新

 ここでは,PHSあるいは無線LANを構内インフラとして構築し,フィールドの革新を進めつつある実例を簡単に紹介する。

3.1 大阪ガス鰍フ例5)
 大阪ガスでは各製造所にPHSを導入し,それをインフラとして各種のシステムを構築,操業・設備管理の革新(図1)を進めている。


図1 PHS導入のねらい(大阪ガス)

 もともと同社では無線ページングを現場の通信手段としていたが,電波法改正に伴い32kbpsのデータ伝送(PIAFS)が配慮されたPHSに更新,また端末として従来からノート代わりにH/PCをオフラインで使用してきたという経緯がある。
 同社のモバイル活用は構内PHSをいかに活用するかという視点から出発している。そのため同社では現在,計装点検支援システム,ガス検知システム,データロギングシステム,振動診断システム,静止画・動画伝送システム,位置検知システム,音声認識による緊急点検システムなど業務および用途向けのシステムを開発あるいはテスト中である。この中にはモバイル活用とはいえないものもあるが,今後とも図1に沿った新しいシステムも加えながら,都市ガス製造・供給プラントの新しい姿を創出していくものと思われる。
 なお,モバイルモニタリングという点では,計装点検支援システム5)を例に取れば,ループチェックやバルブ動作の確認などの点検の際,DCSのデータを参照するため仕様を決定し制作中であり,またディジタルカメラと携帯端末による画像伝送システムはすでに運用中である。

3.2 日本油脂鰍フ例
 日本油脂ではペイント関連の赤穂工場を'97年に新設した。この工場はデータと物が一致して流れるCIMといえるもので,パソコン計装と無線LANによりほとんど全自動で動いている(本誌で紹介予定)。
 その実現の裏には,全ての工程をユニット化し,それを組み合わせた作業表をバーコード化するという工夫が隠されている。また原料缶や製品,半製品,他の工場から持ってくる移行品,リセール品なども部品として捉えバーコードを貼っている。これにより,全ての作業がハンディターミナルによって操作される(写真1)わけで,現場作業がリアルタイムに入力され,データが更新され,同時に全ての履歴が必ず残ることになる。これにより間接部門の省力化だけでなく,製造の進捗状況の管理,製品・在庫管理からクレーム処理など,目に見えないメリットも大きい。


写真1 ハンディターミナルとバーコードリーダによる操業(日本油脂)

 モバイルモニタリングの視点からは,使用しているハンディターミナルは基本的にはデータ入力および制御用だが,パソコン側からのデータ参照にも使っている。

3.3 味の素鰍フ例
 味の素鰍ナはパソコン計装の展開の中で培ってきたDTCR6)(デスクトップコントロールルーム:どこでも計器室)のコンセプトのもとで,全社的に社内標準を定め,これを進めていた。一方,同社の川崎工場では,電波法改正を機にモバイルを意識してPHSを導入し,呼び合うようにしてこれがDTCRに結びついた。
 川崎工場では10万坪の敷地にアンテナを増設更新しながら,現在では32kbpsのアンテナ120本という構内インフラを構築し,一部プロセスではオペレータにモバイルPCを携帯させ,モバイルモニタリングの実用化に踏み込んだ。オペレータによるループチェックの際,現場でモバイル操作により実際にバルブが開閉するのを確認できるのは大きな意味を持っていよう。
 とはいえ同社では,モバイル活用をPHSと限っているわけではない。PHSのない工場はもちろん,PHSのある川崎工場でも,場合によってはSS無線による無線LANの活用も考え,現場テストを行っている。PHSに比べ無線LANは通信速度,情報量などに優れLANに近いので,無線LANによるモバイルPCをDTCRを発展させたポータブル計器室(図2)と位置づけ,プラント運用の将来像を創り上げつつある。


図2 モバイルPCによるプラント監視操作(ポータブル計器室のイメージ図)(味の素)



4.無線技術を活用したモニタリング

 石油精製のような連続プラントや鉄鋼,石油化学あるいは紙パルプのような大型プラントでは,食品や化学などのバッチ型プラントと事情が異なる。石油プラントのオフサイト(タンクローリ車周り)でのモバイルの活用例7)があるが,上記例のような本格的なモバイル活用は先のこととなろう。
 その理由は第一に,大型プラントでは設備の維持管理が当面の最大課題となっていること。第二に,生産に関わる部分はもちろん,設備管理においても大事な部分はすでにセンサ類が設置されDCSに取り込まれていること,そして第三にはPHSなり無線LANなりフィールドを広くカバーしたインフラ投資が必要になるが,その場合の投資対効果が見えにくいことがあげられる。先にあげた実例のように,モバイル効果は,フィールド末端からOAあるいは意志決定へとつながるリアルタイム情報システムによる業務革新が骨子となっている。つまり大型プラントにおいては,こうすれば業務が革新されるという見極めが難しい。
 とはいえ大型プラントでも,条件次第ですぐにでも導入できるシステムがある。

4.1 画像伝送システム
 これは先の大阪ガスでもシステムの一つとして実現しているが,デジカメ付きのモバイルあるいはITVなどの画像をPHSあるいはSS無線でパソコンなどに伝送するものである。PHSとSS無線の仕様比較を表1に示す。画像の表示速度でいえば,解像度320×240ドッドの画像を無線LANで1画面/1秒,PHSで1画面/4秒となる8,9)。


表1 PHS,無線LAN比較表(富士電機)

 このシステムは,保守のベテランが少なくなってきている一方,夜間はできるだけ無人化という方向に持っていきたいとするプラントでは,多かれ少なかれ検討を進めており,一部実用化されているようだ。PHSがなくても,有線LANが目的の設備の近くまで敷設されていれば,点検範囲をカバーするいくつかのSS無線基地局の設置で実行できる。
 伝送された画像はパソコン画面のホワイトボードで手書きコメントされ返送できるので,緊急事態のみならず,メンテナンス体制を新しく考えていく一助となり得よう。

4.2 無線センサによるパトロールの簡易化
 先に述べたように,大型プラントでは設備管理のための重要なセンサは有線で設置されている。しかし,せいぜい1日に一度のチェックでよい測定については,線を引き回しDCSにデータを取り込むのはコスト上難しいという側面があるが,一方では設備異常の傾向管理の精度を上げるためには,そうしたデータも必要になる。ここで紹介するセンサは厳密にはモバイル活用とはいえないが,ユーザ発想から生まれた無線応用システムであり,フィールド改革につながる無線技術の活用という視点から紹介する。
 まず最初に,このセンサはローコストセンサを使っているが,設備に固定するもので従来のポータブルセンサと異なり,人的誤差などなく精度が良いということをあげておく。
 このシステムはセンサモジュール(温度,圧力,振動〔本安防爆〕)とデータコレクタ(写真2)からなり,センサモジュールをブラケットで取り付けて,巡回の際パトロール員がデータコレクタによりデータを収集して回るというものである。巡回のデータ取りこぼし警報機能があり,1000点の収集容量がある10)ので毎日のデータをセンサモジュールにため込んで1週間に1回まわれば毎日のデータ1週間分を収集するというようなこともできる。データはコレクタを専用インタフェースに置くだけでパソコン(エクセルなど)に取り込める。
 すでに,この種のセンサを1プラントに120本ほど設置し,異常の傾向管理用データとして採取,DCSのデータと合わせて設備管理システムを構築中のユーザもいる。


写真2 無線式巡回点検システム:センサモジュールと(左)とデータコレクタ(横河M&C)


5.PHSか無線LANか

 プラントでのモバイル活用に当たって,PHSか無線LANかの選択はそれ以前に,当然のことながら構内インフラの有無にかかっている。しかしプラントにおいては,有線の制御LAN,情報LANはかなり整備されていると考えられるが,無線技術の活用はトランシーバが使われているものの,PHS(PIAFS対応)や無線LANはこれからといって良いだろう。一方,モバイルの活用に当たってその特徴を生かすには,自由度から言えばやはり無線通信ということになろう。つまりプラントにおいてのモバイル活用は,PHSか無線LANかの選択から始める必要がある。

5.1 コスト面からのアプローチ
 一般的にPHSか無線LANかの選択の最初の視点は,コスト面からアプローチされる。それを少し試みてみよう。
 PHSの基地は1局10万円以下程度であるが,SS無線の基地局は15万円以上20万円以内というところであろう。この場合,有線LAN(イーサネット)がなければ,これも引かなくてはならない。
 PHSの場合は基地局からISDNケーブルで距離が出せる。たいていの工場では内線電話が入っているだろうから,ケーブルの引き回しを勘定に入れると,広い範囲で建て屋間にまたがって使用する場合はPHSが有利であるが,PIAFS対応のディジタル電話交換機が別途必要である。
とすると端末の値段を勘定に入れなければ,PHSの基地局数とSS無線の基地局とのコスト差が5〜10万円程度とすれば,SS無線の場合に必要とする基地局数と交換機のコストがコスト面での選択の視点となろう。
しかし施設更新時に内線電話をPHSにしたい,あるいは工場新設の場合PHSということが多くなるだろうから,その辺も考慮に入れなくてはならないだろう。

5.2 機能面からのアプローチ
 PHSは当初からデータ伝送が想定されていたとはいえ,電話感覚的な使用である。無線LANは有線LANの拡張部としてSS無線のアクセスポイント(無線と有線の接続部分)により無線端末と結合したものであるから,LAN感覚で使用できる(SS無線は特定小電力無線局の1.2GHz帯以上の信頼性の向上がなされた通信で,ノイズや干渉電波の影響を受けにくい特性があることから,無線LANでの無線技術はSS無線に絞られてきているといってよいであろう)。
 PHSとSS無線LANは機能面では表1で見たように伝送速度に格段の差がある。つまりマルチメディアのように情報量,速度を必要とする場合,現在のPHSでは難しいであろう。しかし一方で,SS無線LANの場合,同一のアクセスポイントに複数台の端末が接続すると伝送速度は1/台数に落ちる。
 また一般的に,設備コスト面から広域エリアにおいてはPHSが有利とされているが,PHSは本質的に構内放送装置と複合化できる。結局は使用目的次第なのであるが,PHSは電話であることから伝送エリアから出たりして一度切れると再接続しなければつながらない。SS無線LANの場合はいきなりぷっつんと切れることがなく,チャンネルが開いていれば自動復帰する。このことは,比較的広い敷地であっても,SS無線局の設置場所の検討により(構内に伝送エリア外の場所があってもよしとすれば)局数を少なくできる可能性を示唆している。
 つまるところ,PHSかSS無線LANかの選択は,コストと使用目的の両面から切り分けて考え,それを目安とし,具体的に設備を検討し敷地のどの範囲をカバーするのに何本の基地局が必要かという検討次第ということになろう。場合によっては,PHSとSS無線LANの混在ということも十分考えられる。


6.おわりに

 プラントにおけるモバイルの活用は,人の介在するプラントではフィールド業務を改革し,ひいては業務全体の革新へとつながる可能性があることを見てきた。設備の特徴からいえば,現状その最先端を担えるのはバッチプラントであり,その実例も出始めている。
一方,大規模プラントでは設備管理という目の前の大きな課題を抱えているものの,モバイル活用という方向へ進むであろうと考えていよう。また設備更新などの機会があれば,これにトライするであろうことは想像するに難くない。
 また,プラントにおけるモバイル活用をモバイルモニタリングという視点から捉えるとき,これはまさに計装ツールということがいえそうである。21世紀に向け,この新しい計装ツールが普及し,さらなる計装の世界を拓いてくれることを期待したい。

〈参考文献〉
1)菅原光宏,他:『先進企業に見るモバイルコンピューティング活用事例集』,(社)日本能率協会
2)波々伯部忠則:「構内PHSからモバイルコンピュータへ」,『計装』,Vol.40,No.5(1997)
3)井戸照夫:「プラントフィールドへのワイヤレスの応用」,『計装』,Vol.39,No.8(1996)
4)石原敏嗣:「SS無線方式によるフィールドシステムの進展と実用例」,『計装』,Vol.40,No.1(1997)
5)木田敏彦,他:「LNG工場の情報化−事業用PHS活用によるデータ・画像伝送システムの構築」,『計装』,Vol.40,No.5(1997)
6)水田裕司:「デスクトップ・コントロール・ルーム(DTCR)の具現化と要素技術」,'97計装制御技術会議,(社)日本能率協会
7)笹田和義,他:「本安防爆型無線式バーコードターミナル−タンクローリ車混油事故防止システムへの応用」,『計装』,Vol.40,No.5(1997)
8)富士電機潟Jタログ:エムキューブレコM3reco
9)飯野光俊:「携帯情報端末を使った操業支援システム」,'97計装制御技術会議,(社)日本能率協会
10)横河M&C潟Jタログ:無線巡回点検システム/パトサート
 本稿執筆の取材に当たり,以下の会社の担当エンジニアの方々にご協力いただきました。会社名をあげ感謝させていただきます。
(取材順)
東洋エンジニアリング
大阪ガス
日本油脂
横河M&C
川崎製鉄
出光エンジニアリング
富士電機
日本製紙
味の素
(電話取材)鞄月ナ
(電話取材)三菱化学

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