計装キューブは計装分野の情報を専門に扱うサイトです HOME>計装Cube>計装Cube24
本ページは「計装Cube」に会員登録をされていない方でも全文閲覧頂けます。
本ページ文中からリンクされている関連文献のダイジェストも同様に未登録でもご覧頂けます。
各関連文献分の全文を閲覧するには会員登録が必要となります。
お仕事やご研究に役立つ技術論文・資料をお届けするサイト「計装Cube」に
共感を見つけて頂けましたら是非会員登録を!

計装Cube24
運転技術の伝承に向けたオープン化技術の活用と期待

出光興産梶@ 吉井 清次
2005/1

キーワード「標準化・規制/生産情報管理」

 1.はじめに

 製造業において,10年後の社員の急激な減少に備え世代交代への対応が急務となっており,現在の熟練運転員の運転技術・ノウハウをいかに若手運転員へ伝承していくかという大きな課題を背負っている。この対策の一つとして,運転操作手順の自動化による標準化が考えられる。
  一方,装置産業において,プラントの運転に欠かせない計装制御システムや計算機システムは,オープン化の流れの中で,より使いやすく維持管理しやすいシステムの構築・導入を目指して日々高度化が図られ,ユーザレベルでもさまざまなアプリケーションを開発できる環境になっている。
  このような背景のもと,当社ではオープン化システムを活用した運転技術の伝承に向けた活動を実施しており,その概要と将来への期待に関して述べる。

 2.技術伝承の現状と課題

 

プラントに関する運転技術,設備管理技術,システム技術をいかに次世代に残していくかは,装置産業において重要な課題である。この技術伝承を効果的に行う方法は,その置かれた環境や所有する技術レベルにより異なるが,最も有効な方法は技術資料の整備と教育による技術伝達である。
  当社でも数々の教育カリキュラムや技術資料が整備され,あらゆる世代に対しそれらを活用し人材育成を実施している。この方法は確実な人材育成方法ではあるが,人が成長するまでに時間が掛かるという問題点があり,急激な世代交代の流れの中では,それだけでは不十分である。
  そこで,オープン化技術によるIT(Information Technology)を徹底的に活用し,熟練社員の運転技術・ノウハウをより有効に蓄積・活用できる仕組みを確立して,教育のスピードアップを図り,熟練運転員の急激な減少への対処,および装置の一層の安全運転に寄与することを目的に,運転操作手順の自動化による標準化といった活動を行っている。
  当社での運転システムは,図1に示すようにDCS(Distributed Control System)を中心とした計装制御システム,装置スタートアップ・シャットダウン等のボードマン操作の手順を自動化する運転支援システム,さらには,モデル予測制御等の高度制御技術を実現する運転制御システムで構成されている。

図1 システム構成図

  現状,DCSはオープン化システムをほとんど導入していないが,DCSより上位のシステムに関しては,Ethernet・TCP/IP・Windowsをベースとしたオープン化システムを採用,または導入に向けたシステム再構築を実施中である。
  これらのシステムにおいて,DCSは将来的にオープン化指向でのシステム更新を考えており,安全運転の視点からはセキュリティ等を考慮する必要がある。運転制御システムでは,付加価値向上や省エネ等の効率的な運転の実現に加え,システム化する方法としてのノウハウも残していかなければならない。運転支援システムは当初より運転技術・ノウハウの蓄積を目的として導入・活用している。しかし,現システムでは,運転操作手順の自動化は比較的簡単に構築できるが,自動化した操作の判断理由や気付き等を,容易に蓄積・表示する機能が不十分であるという問題を抱えている。
  さらに,運転を支援するためのオフラインシステム,いわゆるナレッジシステムの構築・活用に関しても,いくつかの取り組を実施しているが,蓄積データやその運用の視点から改善すべき課題がある。
  これらのシステムに共通の重要な課題として,
  @システムに詳しくない運転員も容易に構築・活用ができること
  Aシステム間の連携がスムーズでデータが容易に取り出せ加工できること
  B容易にセキュリティの確保ができること
などがある。

 3.技術伝承におけるシステム活用の考え方

  運転技術の伝承においては,運転員のノウハウ等の暗黙知を,すぐに使える形式知とする必要がある。それを実現するためには,さまざまな情報をデータベース化できるナレッジマネジメントシステムや,どこからでもアクセスできるネットワークなどのオープン化システムが有効だと考えている。
  当社では,運転支援システム,運転制御システムのアプリケーションは,それを必要とする運転部門自らが構築し,運転員がすぐに使える状態の運転技術・ノウハウを残すことを理想と考えている。そのために,運転員(エンドユーザ)によるEUC(End User Computing)を推進することが,アプリケーション開発の最も効率的な方法と確信している。
  一方,熟練者の技量に頼らない運転を実現するために,システムでできることはシステム化して,人による運転からシステムによる運転へ変革していくことをシステム化の基本としている。
  このようにオープン化システムの活用により知識・ノウハウを蓄積し,長年培ってきた運転技術を伝承することにより,スムーズな世代交代が実現でき,安全・安定操業に繋がると考えている。

 4.現状の取り組み

  当社で取り組んでいる事例を基に,オープン化技術の活用を紹介する。

  4.1 運転技術の伝承
  ITを活用した運転技術・ノウハウの伝承に対する取り組みは,ボード業務,フィールド業務,スタッフ業務を含めた運転業務全般を包含しているが,ここではボード業務に関する取り組について述べる。
  ボード業務とは運転操作要領書をベースに運転操作を行い,定められた手順での原料切り替え,品質調整等のプラント運転の操作業務と,プラントの変動を見つけるための監視業務のことである。これらの業務におけるノウハウとは,運転操作要領書に記載されていない,熟練運転員の頭の中にある,操作タイミング,操作量,監視ポイント等を指している。
  運転操作のシステム化にあたっては,今まで標準化できていない操作や,運転操作要領書では実現し得ない,操作のタイミング,時々刻々と変化する監視ポイント等の各自が持っているノウハウを標準化し,運転支援システムの中で運転操作手順として実現させている。その結果,ノウハウを含んだ支援システムがオペレータの視線ででき上がり,ユーザにとって非常に使いやすいものになり,日々使用されることでこれらの運転技術が伝承されている。
  具体的アプリケーションの開発は,日常運転で発生する切り替え操作等の定常操作,装置スタートアップ・シャットダウン等の非定常操作,および運転操作を通して発生する監視の3つに分類される。ここでは非定常操作のアプリケーションについて紹介する。
  図2および図3に装置シャットダウン操作を運転支援システムで開発した事例を示す。

図2 非定常操作支援システム事例

図3 引継ぎ簿表示イメージ

  図2は操作手順を示しており,遠隔操作可能な部分は自動化を行うと共に,操作タイミングに合わせて必要なガイダンスを表示するシステムとなっている。ボードマンはそのガイダンスに従って操作することで,熟練運転員と同等レベルのシャットダウン操作を行うことができる。さらに,図3に示すような運転操作に必要な過去の実績データ・引継ぎ情報等の各種情報を同時に確認できるので,運転操作の標準化を行うことが可能である。
  しかも,これらのアプリケーションはオープン化技術によって運転員が自ら構築・運用しているので,装置改造等の要因でアプリケーションの変更が発生しても迅速な対応が可能で,かつ常に最新の運転技術を継承することができる。すなわち,アプリケーションが継続的に活用可能となり,安全・安定運転にも大きく寄与できる。

  4.2 制御技術の伝承
  当社では,主として内製化により運転制御システムの構築を行っている。小規模な制御システムの追加・改造は運転課スタッフが行っており,開発のリードタイムを縮めることで競争力強化に寄与している。
  また,オープン化技術の採用により,@システムの透明性がブラックボックス化を防ぎ,A構築の容易性が開発効率を向上させ,BユーザフレンドリなシステムがEUCの推進を可能としている。すなわち,より短期間で効率の良いシステム構築が可能となっている。
  制御ロジックの中には運転経験に基づくさまざまなノウハウが含まれており,制御技術として受け継がれていくことが重要である。オープン化システムによる内製化は,開発者の裾野を広げることで制御技術の伝承を可能とし,継続的な効率化運転へ寄与するものである。
  現在,当社は運転制御用計算機の更新において,このような利点を享受するため,オープン化技術を採用したシステムを構築しようとしている(図4)。

図4 制御アプリケーション事例

  しかしながら,EUCを推進し開発者の裾野を広げることは,異なる技術レベルの開発者がさまざまな方法で制御システムを構築するため,アプリケーションをより複雑にする可能性がある。したがって,運用維持管理の面から構築方法の標準化が必要と考え,そのための仕組み作りを行っている段階である。

  4.3 情報の統合化による知識の伝承
  装置の運転に必要な情報は,プロセス運転データのみならず,生産計画情報,品質データ,過去の運転経歴,保全情報等,多種多様である。
  現状ではこれらの情報が独立した電子情報や紙情報として分散しているため,的確なタイミングで必要な情報の収集が難しい。したがって,これらの情報を統合して容易に取り出せる仕組みが必要である。近年発展してきたオープン化システムの活用により,比較的容易にこのようなシステムの構築・利用が可能となってきた。
  当社では,運転操作要領書,引継ぎ情報,その他懸案事項等の一部情報をオープン化システム上で統合管理しており,運転ノウハウや過去の運転履歴等の蓄積・活用の仕組みは部分的であるがすでに構築されている(図5)。

図5 情報統合化イメージ

  このシステムをさらに効率的に活用するためには,知識の蓄積が最も重要なことであるが,現状では知識を蓄積する仕組みが十分確立されているとは言い難い。今後,将来にわたって情報の蓄積を継続的に行うためにも,データ入力を仕事の一部として位置付け,確実に実施することが重要である。
  一方,運転操作要領書等の電子情報が運転操作と関連付けられて,容易に取り出せない等の問題もあり,情報の活用の面からの問題点もまだ多く存在する。
  さらに,オープン化システムにて情報統合することは,制御系へのウィルス進入等の重大な問題に発展する可能性があり,より高いレベルのセキュリティ対策が必要である。
  このような問題点があるにしても,ITを最大限に活用した運転を行うためには,情報を統合的に扱えるオープン化技術を活用したシステムは必須であると考えている。

 5.オープン化技術を活用した将来像

 技術の蓄積・活用が容易にできるオープン化技術を活用したITは,将来の運転技術の伝承には不可欠である。運転技術の伝承において,技術の蓄積・伝承を意識することなく後世に伝えられる姿が理想的である。しかし,当面は現在のITを有効に活用して,容易に熟練運転員の技術・ノウハウを効率よく抜けなく蓄積・活用する方法を確立すべきと考える。
  運転支援システムにおいては,必要な情報がすべて盛り込まれた運転操作が完結できるシステムとしたい。さらに,現状では(Know-how)を中心としたアプリケーションの作りになっているが,将来はノウホワイ(Know-why)を含めた知識の伝承を可能とすべきである。
  一方,フィールド業務の運転支援に関しては未着手の状態ではあるが,運転員の五感による監視を,ITを活用し誰もがベテランフィールドマンと同等の監視を可能とし,オープン化システムの中で統合監視できるシステムの構築を目指している(図6)。

図6 フィールド作業支援イメージ

  また,運転制御システムは,DCSを含めてオープン化システムとして統合化される方向にあると考えられ,運転員は今まで以上に効率化を意識した運転対応を要求される。その結果として,統合された制御システムは,緻密な品質・コスト管理を含めた運転管理の範疇までその機能を広げていく必要がある。そのような流れの中で,運転部門は運転制御システムを熟知していなくとも制御機能を付加し,使いこなせることが重要となる。
  一方,引継ぎ情報・運転履歴等のナレッジ活用の面から見ると,運転に関する知識・情報が数値情報・文字情報を問わず,迅速に蓄積・収集でき,実運転へ反映できるように,情報の統合化を図っていく必要がある。当社は運転員が必要な時に(現場を含め)どこからでもデータ・知識にアクセスし活用できるイメージを描いている。

 6.オープン化システムへのさらなる期待

 運転技術の伝承とオープン化技術の活用について述べてきたが,現在ベンダから提供されるオープン化技術に関しては,当社が必要としている運転技術伝承のための道具として利用できると感じている。しかしながら,今後もオープン化技術を活用して技術伝承を推進していく上で,まだ機能的に不十分な点もあるものの,機能改善することでより魅力的なシステムになると考えられる。ここでは,特にベンダに対して下記の機能強化を要望したい。
  現実のシステムでは,オープン化システムと言っても,誰にでもアプリケーション開発ができるわけではなく,さらなる制御構築環境の改善や,運転ノウハウをより簡単にデータベース化すること,特にノウホワイ(Know-why)の取り込みに関しては不十分であるため,これらを容易に実現できる機能が必要と考える。
  オープン化技術の弱点である,OSのアップグレードやセキュリティパッチへの対応,アプリケーションそのもののバージョンアップに対する煩雑な作業を解消し,過去に延々と築き上げてきた資産が確実に継承できる仕組みになることを要望する。
  OPC(OLE for Process Control)においても,リアルタイム性,信頼性において,まだまだ改善すべき課題を抱えているため,DCSの冗長化と同レベルの信頼性とスピードを期待する。

〈参考文献〉
 1)坂本武彦,他:「プラントオペレーションの高度化―運転支援システムの展開−」, 『出光技報』,平成15年1月号(第46回1号)

 2)武田義信,三宅幹雄,他:「技術の伝承について語る」,『ペトロテック』,JUL2004年,Vol.27,No.7

このコンテンツの全文を閲覧するには会員登録が必要です。
未ログインの方は画面右上部の「全文を読む」というテキストをクリック後表示されるログイン画面にIDとパスワードを入力してください。既にログインされてる方は画面右上部の「全文を読む」というテキストをクリックすると全文表示画面に移動します。
会員登録がまだの方はこちらから会員登録をしていただけます