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計装Cube12
横河電機に聞く
そこにある計装未来

横河電機(株)取締役専務執行役員 技術開発本部長 永島 晃
インタビュアー 月刊「計装」編集長 稲橋 一彦

キーワード「トレンド/マイクロプラント/シミュレータ」

現在,日本の装置産業,中でも化学系の産業では,トラブルを極力抑えた安定したプラント運転が最大の課題となっています。その安定したプラント運転には,安全と品質の安定はもとより,省エネ・CO2削減に対応する一方で,少子化に伴う技術・技能伝承という問題もクリアーしていかなければならないという,まさに総合的なソリューションが求められています。
 そこで計装ベンダートップである横河電機では,そのソリューションをどこまでをカバーしていくのか,将来像と合わせてお聞きました。
(創立90周年を迎えた横河電機は,YOKOGAWA技術未来展(10月26日〜28日)を開催した。このインタビューはそれに先立つ10月5日,横河電機(株)本社にて行われたものです。)

■マイクロプラント−2010年


写真1
永島 晃さん
―化学プラントでは,超安定化運転と技術伝承とが最大の課題ですが,インターネット,PDAや携帯電話活用の片側でセキュリティ問題もあります。そのためのソリューションとして横河電機では,どのようにカバーしていこうとしているのか。

永島 今,日本は転換期にあり,プロセス制御は従来通りの方法だけでは今後やっていけないのではないかと思っています。製造業における環境への配慮は今後ますます求められ,一方,差し迫った問題として人材の確保があります。日本においては熟練者の不足が2007年問題としてクローズアップされていますが,海外でも現地の操業経験者を十分に確保できないことを前提としなければならない場合も多々あります。この問題が特に化学や医薬品の一部のプラントで顕著なのは,石油・石油化学プラントに比べプラント規模が小さく,コストパフォーマンスからみて人材を確保しにくいという理由があるかと思います。
 そういった問題の解決のため,実現には5年後あるいは10年後になるかと思いますが,「マイクロプラント(関連文献:総論/リアクタ/分析)」が,特に化学系分野に対して一つの有効な解決策ではないかと考えています。化学の分野では「グリーンサスティナブルケミストリー」という言葉が表すように環境に優しい製造が非常に重要視され,「イーファクタ(E-factor:目的化合物に対する副生成物の重量比)」の観点からも,無駄な生成物を縮小できるマイクロプラントが期待されています。


―マイクロプラントは実際に動いているのですか。

永島 今,動こうとしている段階であり,業界の方々からはその必要性が熱く語られています。当社ではMEMS (Micro-Electro-Mechanical Systems)技術やマイクロ流量計測・制御の技術を蓄積してきており,2010年までには一定の目的に特化した装置を提供できるようになり,その後,徐々に対象を拡大し2015年頃に本格的な事業展開をできたらと考えております。ただ,マイクロプラントが化学プラントすべてを置き換えるというわけではなく,全体に占める10%程度がその対象となるでしょう。
 マイクロプラントの面白い点は,混合,攪拌,反応という化学バッチによる製造を微少な流れの連続系製造として扱うことができるところです。バッチから連続に変わればフィードバック制御が行えるようになり,製品の品質を安定していくことができます。
 ただマイクロプラントはセンサ,バルブ,コントローラというように,個々に技術を提供するというのではなく,それらをエンベデッド(embedded:組み込み)したものとして提供していくものですから,当社単独でできるものではなく,ユーザ,プラントエンジニアリング会社の方々と協力していかなければ実現できないと思います。

■トラッキングシミュレータ−2007年

―化学プラントの差し迫った問題として,技術伝承,人材育成の問題がありますが。その点については何かアイディアはありますか。

永島 将来の話を先にさせていただきますと,実プラントとシミュレータをトラッキングさせて動かし,現実のプラントの振る舞いをリアルタイムかつダイナミックに理解できるようになれば,かなり高いレベルでの操業が可能になると考えています。そうなりますと,制御について今までとは違ったスタンスで臨めるのではないかと思います。
 シミュレータと実プラントがイコライズすることで得られたモデルを活用すれば,今までとは違うケミカルエンジニア(プロセスエンジニア)にももっとわかりやすい制御を行えるようになるのではないか。実現までにはまだ時間がかかると思われますが現在,横河電機の一つの研究テーマです。
 このトラッキングシミュレータは現在,燃料電池のプラントを対象にリアルタイムで実プラントとモデルプラントがトラッキングする仕組みを開発しています。10〜20ぐらいのパラメータの適用を行えれば,多くのものは類推できるところまで持っていけると思います。ただ,これはたまたま燃料電池だからという面もあるかもしれませんが,反応槽でも大事な制御ループは10ループぐらいですから,その倍ぐらいのトラッキングでできるのではないかと考えています。現在,CPUのスピードは毎年向上しており,今すぐにできないかもしれませんが,そう遠くない将来には実現可能であると思います。
 今まで,PIDコントロールを空気式でやっていた時代から,電子式になり,コンピュータを導入し,最適制御など色々なことを行ってきましたが,ある意味でそれは技術の摺り合わせでやってきて,いいところまで来ているのです。今後の化学系におけるオペレータはケミカルについて専門性がより一層要求されるようになることが予測され,従来の制御から一歩飛躍したものが要求されるべき時代になると信じています。

■ベストプラクティス−現在

永島 現在,目の前にある操業を行っているオペレータのノウハウをどう継承していくかという点については,オペレーションの問題と同時に,エンジニアリングの問題でもあります。オペレーション支援(関連文献:バッチ反応/計量)するシステムとして当社では「Exapilot」があります。これはオペレーションのマクロ化でありオペレーションの仕事をわかりやすいコマンドに切り替えるものです。ただ,このシステムでのオペレーションに慣れてしまうと,エンジニアリングのノウハウが消えていくというところがあります。オペレータのベストプラクティスをオペレータ全員が実行するための手段は用意されていますが,ベストプラクティスを考え出すための機能は入っていません。
 ですから,ベストプラクティスとしての最適な制御を生み出すための技術を継承するためには何か別のことを考えなければならないでしょう。これは非常に難しいことなのですが,具体的にはシミュレータ「Plantutor(運転訓練シミュレータ:三井化学と横河電機の登録商標)」(関連文献:ベンダー/ユーザ事例)などを使い,仮想的なトライヤルを行い,プラントとはどういうものなのか,どうしたら爆発するのかなどを疑似体験するトレーニングを行うことが始まりです。

―技術伝承には同時に風土改革(モチベーションの向上)がユーザの抱えてる問題としてあると思うのですが,その問題に対する回答はありますか。

永島 例えば,砂漠に山を作って嵐によりすべてを失うとやる気も失われる。作り上げたものの上にさらに築きあげることができれば,モチベーションも高まります。当社の「Exaquantum」ではフィールドのデータを取り,他のデータとの相関がわかり,分析を行うことを可能とするツールです。昔はオペレータが鉛筆をなめなめやってきたものを,ドキュメント化したものです。こういったツールをうまく使うことでオペレータの意識も変わっていくかと思います。さらにこれらデータ収集・解析をPDAなどのモバイル(関連文献:化学/紙パ)機器と組み合わせることでさらに効果が出てくるのではないでしょうか。最近ではオペレータが現場回りも行うようになってきており,現場の雰囲気を感じながら,オペコンを見てオペレーションを行う,現場でデータにアクセスできるということは今の時代の行動モデルとして非常に重要なことだと思います。

―最後に,注目の技術など,一言ありますか。

永島 比較的近未来で横河が注目している技術の一つに,無線技術の利用があります。実現までに5年以内と考えていますが,これは温度,圧力,流量のような4〜20mAで流していた情報ではなく,品質情報,異常情報などの2次的なデータを無線で収集する。4〜20mAに代わり,物理量の秒単位のデータを無線で飛ばして収集することはバッテリや信頼性の問題からもプラントの大事な制御そのものに使用するには不十分だと考えています。ですから,差圧伝送器や流量計に無線ユニットを入れ,FOUNDATIONフィールドバスでいうような予知保全などの情報を飛ばすことになります。
 それの一つの応用として「テンポラルセンサ(temporal:一時的な,つかの間の)のコンセプトがあります。これは,プラントの立ち上げ時に1週間とか1ヶ月だけプラントの振る舞いを知りたいというニーズに対応するものです。
 最後の一言として,モノづくり日本の復権などと言われていますが,残念ながらプロセス産業についてはまだまだの状況です。今は日本から海外に製造業が出ていっていますが,ファインケミカルや医薬品の一部などはどこで作るかとう問題よりも,どうつくるかの問題が重要となり,日本にプラントが戻ってくるのではないかと思います。もしくは,海外のプラントを日本から操業する「インターネット分業生産」のような形態も生まれてくるかもしれません。われわれ日本人は日本人としての非常にすばらしい特質を持っているわけで,ここ数年,海外にばかり目がいっていますが,すばらしいものをわれわれが作ったならば,プロセス制御だって日本に戻ってくると思います。少なくとも,日本の知識・知恵がそれに対して貢献できる時代がまた近くなってくる気がしています。


【インタビュー 終】

グリーンサスティナブルケミストリーとは

グリーンサスティナブルケミストリー(Green Sustainable Chemistry):
生体系に与える影響を考慮し,持続成長可能な化学工業のあり方を提言する環境運動。日本においては化学製品に対する環境政策はグリーンケミストリーとサスティナブルケミストリーとを同時に推進することを目的としているため,同用語が使用されている。
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MEMSとは

MEMS:(Micro-Electro-Mechanical Systems):
マイクロチップを利用した極小の器具のこと。超小型冷却装置や微生物学者用の超小型ピンセット,ワイヤレスアンテナコントローラといった製品の分野。トランジスタなどの電機的な要素と小型ポンプや環境センサなどの機械的要素を組み合わせてあり,標準的なコンピュータチップとは異なる。これまで,温度や圧力といったセンサに利用され,ブレーキセンサやエンジンヒートセンサなどが自動車に使用されている。
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トラッキングシミュレータとは

トラッキングシミュレータ:
実プラントと並行して,プラントモデルをリアルタイムに動作させ,実プラントの測定値と,プラントモデルの計算値をずれを減らすように,トラッキング・アルゴリズムがモデルのパラメータを修正するもの。 このことにより,トラッキング・シミュレータは,いつでも実プラントに適応した推定値となっており,任意のタイミングで予測シミュレーションできる。
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テンポラルセンサとは

テンポラルセンサ: システム構築や装置点検などの場面で,一時的に機器のリモート監視・診断が可能なセンサ。 IEEE802.15.4/ZegBeeを元に,フィールドに最適なネットワークを構築しようとしている。
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〈関連文献〉※インタビュー記事中で参照された論文リスト

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