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計装Cube11
PSEによる省エネソリューション,そして計装エンジニアの役割
−話は超安定化プラントから始まった−

三菱化学(株)技術部 高田 晴夫
三菱化学エンジニアリング(株)ソリューションセンター 山中 史彦

インタビュアー:計装Cube編集長 稲橋一彦
2005年9月21日 三菱化学(株)水嶋事業所にて

キーワード「診断/フィールドバス/活用事例」

 2007年問題を背景に,日本の装置産業では,いかに少ない人数でプラントの安定操業を実現維持するかが課題になっています。このところ盛り上がりを見せてきた設備投資も,その方向に向けられています。それはまた,国際社会における競争力維持のためのスタンスともいえるでしょう。
 国際競争力という面では,京都議定書に示されたように,CO2削減−装置産業にとってはさらなる省エネルギーを進めることが求められています。つまり,必要不可欠な最小のエネルギーでプラントを安定して操業すること。そのためには,ムダを排除し,トラブルを未然に防ぐことが基本となります。それを実現したプラントは,「超安定化プラント」(関連文献:ユーザ事例1/ユーザ事例2)といえるでしょう。
 三菱化学は,1990年代の初頭から,高度制御の導入をきっかけに,この問題に取り組み始めました。

SSOT(ネガティブテクノロジー)がキーとなる。


 高田 晴夫さん
―――まずは「超安定化プラント」を実現する上でどのようなことを,キーワードとして捉えればよいかということから伺いたい。
高田 なかなか難しいのですが,「超安定化プラント」というと,まずは安全・安定操業=絶対に事故・トラブルを起こさないということが大原則です。三菱化学では1990年ごろに,モデルベースアプローチという考え方でシミュレーションのプロセス設計,運転への活用などに取り組み始めました。高度制御はモデルベースアプローチの計装面への展開です。
 ところが実状は,非常にトラブルが多い。水島事業所においても月に100件を超えるトラブルがあり,いちど基本に立ち返えってプラントの安定化に取り組むのが先決であろうということになりました。
 当時,加工・組み立て中心で行っていたTPMを装置型産業に展開しようということで,まずはトラブルを「見える化」(関連文献:概論/ユーザ事例)し削減すること。そして計装関連ではオペレーションの安定化,つまり一つには頻発するアラームの削減,もう一つとしてオペレータの操作頻度の削減です。その取り組みの成果はかなり出ました。

―――どのくらいトラブルが減りましたか。
高田 トラブルにも色々ありますが,生産に影響を与えるものをトラブルと定義しますと,当時,月100件以上あったものが,現在では数件,もしくは0になりました。
 ところが大きなトラブルが全くなくなった訳ではありません。たとえば,水島事業所でも去年から今年にかけて,プラントが停止する大きなトラブルも発生しています。石油化学プラントでは1回止まってしまうと,非常に大きな損害になります。その意味でまだまだ真の「超安定化プラント」は実現しておらず,現在,しきり直しをし,活動を行っているところです。

―――大きなトラブルというのは,想定できなかったトラブルということですか。
高田 そうです。超安定化プラントを実現する上で何が課題かというと,一つは設備が老朽化してきたので設備管理をもっとしっかりやらなければならないということ,もう一つはトラブルの原因がわからない=解明できていないものがプラント上の不安定要因としてまだまだあることです。
 そこで化学工学の世界では「ネガティブテクノロジー」と言われますが,プラント安定運転を阻害する要因−腐る,詰まる等−について,今まで技術的に体系化されてこなかったことをきちんと体系化しようとしています。我々はこれをSSOT(Super Stable Operation Technology)と呼んでおります。
 もう一方の問題としては,人の問題です。これはオペレータの世代交代が目の前に迫っており,これを何とかしなければなりません。シミュレータ(関連文献:ユーザ/ベンダー)を使用して訓練はしていますが,トラブルを経験してきたベテランオペレータと同じ次元を求めるのは無理ではないか。ですから,あるべきオペレータ像を明確にして,オペレーションというものを考えていかなければならないのでなないかと思います。そのためのサポートとしてシステム(関連文献:石油/鉄鋼/紙パ)はどうあるべきかということを考えていかなければならないということです。


PSEによる省エネルギーは超安定化プラントへの道。


山中 史彦さん

―――トラブルの原因が,どこにあるのか,設備であるのか,プロセスにあるのかわからない。そのためにプロセスや設備を診断していく技術と,省エネを実現する技術と非常に似ている。
 三菱化学エンジニアリングでは「PSE(プロセス・システムズ・エンジニアリング)による省エネ」といっていますが,超安定化のためトラブルをなくすこともPSEの大きな役割ではないかと思うのですが。
山中 そうですね。ロスを見つけるのも,トラブル要因を見つけるのも,運転とプロセスをしっかり理解することから入らないとだめですね。
 一般にPSEというのは,プロセスの開発から設計,運転,保全までの色々な課題をシステム的な考え方で解決するための工学ですが,色々な技術を,横通しで繋げていくような学問体系としてとらえることができます。まさに,省エネやトラブル削減というのは,そういう取り組みをしないと,機械だけを考えているとか,計装だけを考えるとか,単位操作だけを考えるとかでは問題解決できません。そこで,三菱化学グループの生産技術ではPSEが大きな役割を果たしています。

―――ということは三菱化学においてはPSEに取り組む部門が別にあって,プラントの安定化をどう進めるかということをグループ全体で行っているわけですね。そして「PSEによる省エネ実現(関連文献:ユーティリティ/空調/電気)」「PSEによるトラブル削減」ということで,それらが集まっていくとプラントの安定ということになっていくということですね。
山中 PSEだけでトラブルを削減できるわけではなく,専門家された設備管理の深い技術や診断やケミカルの知識の部分など,個別に対応していくのですけど,ことオペレーションになるとPSEが必要になってきます。それから,安全・安定と,コスト削減(安価)というのがあり,そこでは省エネの問題がでてきますし,環境の問題もあります。
高田 三菱化学ではPSEはプロセス生産技術部門といっていますが,6つのグループで構成され,体制はRDの部門と技術・生産センターとが一体となって活動しています(図1)。
 図のように,PSEには物性研究所,モデルを組んでシミュレーションを行うグループ,プロセス開発グループ,また環境・安全関連では物質安全リスク評価などもあります。そのほか先ほど話に出た「ネガティブテクノロジー」行うSSOTのグループもここにあります。
 それから,もっと上位のプラント全体,ビジネスまでを含めた最適化を行うグループがあり,これらのいろいろな機能をもったグループが一緒になって活動しています。
 PSEの役割として,新しい製品やプロセスの開発を効率化することで,開発からスケールアップし工業化する各段階においてPSEが機能しています。もう一つはプラントの安定化で,これは省エネ,効率化,生産性向上につながります。プラント操業の安定化による稼働率の向上を実現し,それができるとその上で最適なオペレーションを考え,さらに進むとビジネス系を含めた全体の最適化を目指していくコンセプトのもとにおこなっています。

―――そうしますと,三菱化学エンジニアリングが提案する「PSEによる省エネの実現」については,省エネに限られたことではないわけですが,なぜ省エネソリューションとして展開しようとしたわけでしょうか。
山中 省エネだけをターゲットにしているわけではなく,トラブル削減なども含めたものですが,一般にソリューションというとかなり広いものになってしまうため,まず第一段として省エネをもってきました。それと,MECはもともと旧三菱油化が持っていた蓄熱材(STL)を売っていたり,コジェネ,マイクロガスタービン技術など持っていたりして,そういったところでの省エネ提案がありました。その点からも軸はまず省エネに展開していこうということになっていますが,実際に顧客側に入りこんだら,トラブルの削減の課題や,小人化のニーズがあり,それらに対応した技術を提供しています。

―――ということは省エネといっていますが,PSEの中に人の問題やトラブルの解析の課題などが含まれているのですね。……三菱化学としては,この取り組みが90年ごろはじまり,その後物流の問題等,幅広く取り組まれ,トラブル削減についても究極のかたちまではいかないまでも,かなりの成果が出てきて最後の仕上げまでの段階まできた?(図2参照)
高田 いやまだまだです。生産計画,スケジューリング,物流といった段階までいくと,実際のビジネスを行っている事業部や基幹システム(情報システム)などと取り組まないと。われわれ(製造)がいくら最適化のソリューションといっても全体システムからみればごく一部ですから。
山中 省エネにしても,それを実現した当初はちゃんとできているのですが,いかに維持していくかという課題があります。プロセスでは増改造が起こったり,それに伴ってオペレーションが変わったりしますから,一度実現した省エネレベルをキープするためには何か手を打たなければならなくなります。
 片や,生産計画のスケジューリングや最適化の問題では,プラント最適化レベルではPSEでの取り組みは可能ですが,企業レベルの最適化となると事業戦略の最適化ですから,既存製品をずっと作りつづけるための最適化もあれば,あたらしい製品・プロセスを立ち上げる,ライフサイクルの最適化も考えなければなりません。三菱化学全体で考えれば医薬部門との関連などを含めた企業の事業戦略という非常に大きな話となり,PSEの範疇を越えてくると考えられます。


「見える化」,そして計装エンジニアの役割。

―――先ほどのトラブル削減に関して「見える化」が一つのキーワードではないかと思いますが。
高田 「見える化」というのも色々あります。まず制御の世界でいいますと,いかに制御がうまくいっているのかということを指標として出すこと。一番最初にやったのは,アラーム解析などです。
 具体的には,DCSでイベントをカウントして,プロセスコンピュータを介してイントラネットを通じて見えるようにしています。そのほかにも高度制御の導入率とか,オート投入率などの指標化をしています。省エネに関してはまだそこまで徹底していませんが,エネルギー原単位などでは生産管理システムの日報で出していますから,毎日見ることができるようになっています。エネルギーロスを見えるようにしてリアルタイムでの指標化というのは難しいのです。ただ蒸気などの発生量と使用量の差などは定期的に見えるようにしようと現在,行っているところです。
山中 違う面で考えても,たとえば三菱化学エンジニアリングの環境エネルギーソリューションの一部ではスチームトラップの量を全部測定・推定したり,蒸気の発生量と使用量のバランスを見たり,そのデータを解析・定量化して,これならガスタービンをつけたほうが良いとか,ソリューションを提供する。蒸気に限っていうと,そのロスの主な原因はトラップと配管保温状況,配管の経路で,そこをきっちり定量的に押させることが重要といえます。

―――それはまさに計装エンジニアの仕事ですね。そこでお聞きしますが,三菱化学におけるPSEや三菱化学エンジニアリングのソリューション提案などにおける場では,プロセスエンジニア,機械・電気エンジニア,コンピュータエンジニアなどなど多くの人が関わってきますが,その中で計装エンジニアはどういう立場にあるのでしょうか。
高田 計装エンジニアの強みはプロセスもオペレーションも知った上で,システム的な考え方をできるというところです。計装エンジニアはせまい意味で計装にとどまっているのではなく,もっと主体的な役割を負える,また負うべきだと思います。計装エンジニアはオペレーションのことを考えての設計もできますので,非常に貴重なエンジニアと私は思っています。
 先ほどの「見える化」という話でいうと,センシング技術も「見える化」ですし,どんどんやっていかなければななりません。また,プロセスデータを解析して対策を練るのも(機器・装置の設計などの専門家もいますが)計装エンジニアであり,オペレーションになると制御や最適化があり,計装エンジニアがやっています。ですから,役割はどんどん広がっています。
 当社ではフィールド計装やDCSは三菱化学エンジが行い,システムとか制御とかの設計や最適化とかを私の部門という形で,組織的に分かれてしまっていますが,広い意味での計装エンジニアとして一緒にやっていこうと思います。
山中 計装エンジニアの活躍の場はこれからは広がっていくと思います。計装というと現在では制御・計測機器の設計・エンジニアリングと工事・保守という感じですが,これからフィールドバス(関連文献:化学/紙パ)などの最新技術が適用されるとシステムと機器とネットワークが一体化し,そこからデータが発生し,本当に広い知識を持たないとならない。また,それらフィールドデータが活用されるようになると少し上位系の最適化やさらに広範囲な省エネを考える必要があり,そのもてる知識を活用する場はいろいろなところに広がっていくと思います。

―――「見える化」は,計測するということだけではなく,効果を見せモチベーションを高めるためのキーワードであるということですが,そのツールとしては液晶ディスプレイなどですか。
山中 コンピュータで作ってもいいですが,大きな掲示板などもその対象です。データを収集して手書きで紙に書いて張り付ける。
高田 アナログも捨てがたいといころがあって,TPMでは活動板というのがありまして,それを作るのは結構大事なのです。現場の活動板というのは課長の意思を伝える場なのです。
 もちろん計測,データ収集の「見える化」があり,その上で活動が見えるようにしなければならない。
山中 現状をベンチワークしたものをまとめ,あるべき姿をまとめ,それに対して課長の思いが入り,進捗具合はシステムとして把握できるようにするということです。

【インタビュー 終】

ネガティブテクノロジー:〈参考文献〉

  • 細野恭生ら:化学工学,61(11),847-881(1997)
  • 磯谷,井口:「汚れ閉塞現象の計測と解析による長期連続運転技術の確立」,化学工学,68(5),257-259(2004)
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PSEとは

プロセスシステム工学は,装置産業における生産にかかわる各種プロセスやシステムの計画,設計,運用,保全にかかわる種々の問題を,より合理的に,より系統的に解決するための方法論および具体的な解法の基礎を提供してきた.しかし産業界をとりまく環境の変化とともに,その時々に必要なプロセス技術およびシステム技術は変化しており,これに応えるためには,基礎および応用両面からの継続的な研究が必要である.プロセスシステム工学において,これまで開発され利用されてきた核となるプロセスシステム技術は次の5つの分野に分類することができる。
  • プロセスモデリング/プロセス解析/プロセスシミュレーション
  • プロセス設計/プロセスシンセシス/プロセス最適化
  • プロセス制御/プラントワイド制御
  • プラントオペレーション/システム保全
  • 生産管理/設備管理学術振興会143委員会(PSE)より
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〈関連文献〉※インタビュー記事中で参照された論文リスト

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